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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
…翌朝は、昨夜の豪雨が嘘のように初夏の光が眩しい晴天であった。
柊司が部屋のカーテンを開けると、目の前にはきらきらと光り輝く紺碧の海が広がっていた。
空と海の境が曖昧になるほどの美しい青の風景に、しばし眼を奪われた。
窓を開けると、しっとりと水分を含んだ潮風が優しく貌を撫でる。

昨夜は夜でよく分からなかったが、店の目の前は海岸だったのだ。
石段のすぐ上が店という素晴らしいオーシャンビューのロケーションだった。

思わず深呼吸し、潮風を胸いっぱいに吸い込む。
店をぐるりと囲うように植えられている垣根には、美しい蒼い紫陽花が咲き誇っていた。
その隣…店の入り口の白いこじんまりとした看板に、店の名前が記されているのが見えた。

…紫陽花食堂…か…。
思わず柊司は微笑んだ。

あのひとにぴったりな可愛らしい名前だ…。
胸の中がふっと温かくなった。

…澄佳さんのことを考えると、いつもそうだな…。
心が温かな湯に浸かったように柔らかく解けてゆくのだ。

愛おしい…可愛らしいひと…。

柊司はそのひとに会うべく、ゆっくりと部屋を後にした。
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