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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
…窓の外の穏やかな美しい内房の海を眺めながら摂る朝食は、柊司に豊かな気持ちをもたらした。

「…本当に綺麗なところですね。
内房は中学生の時に臨海学校で来たきりでしたから、新鮮です」
柊司の言葉に、彼女は嬉しげに微笑った。
「…ここは何もないけれど、海は綺麗だと思います。
…本当は今日、色々ご案内したかったんですけれど…」
食堂を毎日一人で切り盛りするのは言うほど容易いことではないだろう。
この後も、用事が目白押しの筈だ。
それなのに、申し訳なさげに言う澄佳が愛おしい。
「とんでもない。僕がいきなり来たのですから…。
…その代わり…」

柊司はじっと澄佳を見つめた。
「…また、貴女に逢いにこちらに来てもいいですか?」
澄佳が驚いたように貌を上げ、長い睫毛を瞬かせた。
…そうして、小さく頷いた。
「…はい。いつでも、いらしてください…」
それはとても微かな声であったが、澄佳の嘘偽りのない意思を感じる声であった。

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