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虜 ~秘密の執事~
第1章
「いやぁ――っ!!」
絶叫して飛び起きた椿は、瘧に罹ったようにぶるぶると震えていた。
全身から冷や汗が吹き出し、ネグリジェの中を気持ち悪く伝い落ちていく。
しんと静まった部屋には、椿の荒い息遣いだけが響いていた。
椿はやっと自分の置かれている状況を把握し、深く息を吐く。
(夢……)
「………っ」
最後に見た男の顔を思い出し、椿の喉が詰まる。
大きな両目からはぼろぼろと涙が零れ落ち、嗚咽が漏れる。
「さかき……さかきぃ……」
そう愛しい人の名を呼んだ時、
「お嬢様……」
控えめに響く、テノール。
榊は寝室の入り口に直立不動で立っていた。
椿は救いを求める様に、細い両腕をめい一杯榊へと伸ばす。
(助けて――!)
その言葉が聞こえたかのように、榊は椿の元へ走り寄りその細い体を抱きしめた。
「汗をかかれていますね……怖い夢でも見られましたか……?」
ぐっしょりとネグリジェを濡らし小刻みに震え続ける椿に、榊が静かに語りかける。
榊が呼吸をするたびに上下するその逞しい胸に、椿は必死にしがみつく。
「さかきぃ……」
しがみついて離れない椿の長い髪をそっと撫でると、榊は軽々と椿を横抱きにして持ち上げた。
「このままでは風邪をひきます。シャワーを浴びましょう」
浴室に運び込まれた椿は身体に張り付いたネグリジェを脱がされ、猫足のアンティークの浴槽の中に座らされた。
ジャケットを脱いで手袋を外した榊が、シャワーヘッドを使い、汗を流していく。
そして泡立てたスポンジで背中を撫でる様に洗っていく。
その表情には何の色も伺えなかった。
十六歳とはいえ、既に女らしさを備えた椿の身体に触れているのにも拘らず――。
「………」
(そんなに、私は汚い? ……私に興味が無い――?)
「……もう、いい……」
熱い涙がじわりとまなじりに滲む。
泣いたら榊を困らせてしまうだけだと分かっているのに、椿はあまりに自分が惨めすぎて涙を押さえられなかった。
「お嬢様……?」
「……もう自分でできる……」
(もう、分かったから……榊が私の事を女として見れないってことは……)