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虜 ~秘密の執事~
第2章   

「椿さん?」

ぼうと考え込んでいた椿に、黒澤が不思議そうに話し掛ける。

「ああ、すみません、なんでしょう?」

「良ければ昼食の後、庭の周りを散策しませんか。大きな池があって綺麗ですよ」

「ええ」

椿は昼食後には昼寝をしたかったが、しょうがないと諦め了承した。
 
別荘の庭は庭と呼ぶには広すぎる位の広大さだった。

徒歩で散策するのだろうと思っていたが、黒澤が用意したのは馬だった。

嗜みとして乗馬はある程度出来る椿は、久しぶりの乗馬に心が浮き立つ。

「すみません、ここには馬が二匹しかいなくて……」

黒澤が榊に申し訳なさそうに謝罪する。

「大丈夫よ榊。池の周りを一周したらすぐに戻って来るわ」

榊は椿を馬上に押し上げる。

乗馬の予定があるとは聞いていなかったので乗馬服を用意していなかった椿は、ロングスカートで横のりをするしかない。

「……畏まりました。くれぐれもお気をつけて……」

そう言って首を垂れた榊は二人を見送った。

パカパカとゆっくり馬を駆る音。

森林の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込み、椿は乗馬を満喫していた。

「椿さんはなかなか筋がいいですね」

暫く行くと、先を行く黒澤が笑顔で椿をそう褒めてくれる。

「ありがとうございます。でも二年ぶりでしたので、やはり最初はひやひやしました」

そう謙遜した椿を見つめ、黒澤が馬を止める。

「ちょっと休憩しましょうか」

黒澤が指し示した方向には池のほとりにベンチと小さな東屋があった。

手伝ってもらい降りた椿は、馬の手綱を近くの幹に括り付けて池のほとりに立つ。

「もし絵の嗜みがあれば写生をしたい程の美しさですね」

「こんなもの、椿さんの美しさに比べれば霞みます」

いきなり歯の浮くような賛辞を受け、椿はあいまいに微笑む。

そんな椿の腰を黒澤が抱き寄せる。

「申し訳ありません。もう我慢できない――」

まっすぐに見つめられた瞳は熱を帯びていた。 

その時、椿ははっと悟った。

榊に抱かれて以降、ずっと感じてきた違和感の正体――。

(榊……私の目、見てない――)
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