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虜 ~秘密の執事~
第2章   

その夜。

榊が父親の部屋の扉をノックしようとした時、その手を横から取られた。

そこには椿が立っており、下から榊を睨みつけていた。

「榊……バカな事を考えているのではないでしょうね? 辞めさせないわよ」

「……お嬢様」

図星を刺されて黙り込んだ榊を、椿は腕を引いて私室へと導く。

私室に榊を招き入れた椿は、後ろ手にドアと鍵を閉め、榊をきっと睨み上げる。

「お嬢様、申し訳ございません。私はお暇を頂きたく思っております……」

「何で……? どうして榊が止める必要があるの? 抱いてって言ったのは私の方よ――」

困惑して必死に追及する椿から、榊は目を背ける。

「……昨日の私は最低でした。黒澤様に焼きもちなど焼き、貴女が求めていないにもかかわらず、お嬢様を抱いてしましました」

「……それの何が悪いというの?」

椿は本当に分からず、首を傾げる。

椿は心底嬉しかったのだ。

榊が初めて焼きもちを焼き自分から抱いてくれたということは、少なからず椿の事を好きだと思ってくれている証拠だろう。

「私は……これからもきっと、貴女の気持ちが私から離れても、ずっと貴女を抱いてしまいます……」

「馬鹿……」

椿はそう言うと、榊の胸に飛び込んだ。

「ホント、バカよ貴方は……私が一体何歳の頃から貴方の事を好きだと思っているの?」

椿を引き剥がそうとする榊に抵抗し、椿はさらに榊の背中に手を伸ばしてしかと抱きつく。

「椿様……」

困惑した声が頭上から降ってくる。

「十歳よ! 私十歳の頃から榊に惚れていたのよ。貴方に求められて嫌なんてこと、あるはずないじゃない!」

「………」

椿の必死の告白にも拘らず、榊は沈黙したままだった。

(分かってる。貴方はきっと、私のことを愛しているとは言ってくれない……、けれど――)

「婚姻は大学を卒業後よ! 後何年あると思っているの?」

「六年……ですね」

「そうよ、六年。その間ずっと一緒にいられるのに、今、何をやめる必要があるの?」

椿は必死に思いを込めて榊を見上げる。

(私はもう、貴方に合った時から、囚われているのよ……)
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