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虜 ~秘密の執事~
第1章
(ウニの未受精卵のどこにXY染色体が存在するかですって……どこでもいいじゃないそんなの!)
椿は心の中で悪態を付きながらも、『共にゼリー層だけに存在する』に丸を付ける。
「正解です。後二十ページされたらピアノの練習に移りましょう」
そういった榊は書斎の隣室に行ってしまった。
数分後、椿にピアノ教師から出された課題曲が聞こえてくる。
弾いているのはもちろん榊だ。
寸分の狂いもない演奏、大学センターレベルの勉強を教えてることも出来る完璧な執事――いや、他の使用人たちはこんなことは出来ないので、やはり彼は特別なのだろう。
「そんなに完璧に弾かれたら、やる気なくなっちゃうって……」
それにもうどれだけ上手くピアノを弾こうが、勉強を頑張ろうが、榊は頭を撫でてくれることもない。
椿はそのピアノを子守歌に、またうつらうつらしてしまう。
その度に長い黒髪がさらさら揺れ、濃く長い睫毛が悩ましげに震える。
ピアノを磨き終わた榊が書斎に戻った頃には、椿は机の上で熟睡していた。
「本当にお嬢様はどこでも眠られるのですから……」
椿はどこででも寝られるし、寝起きが悪い。
先ほども肩を揺さぶってやっと起こしたのにまた眠ってしまった自分のお嬢様の肩を、榊はそっと掴む。
オフホワイトのレースワンピースに包まれた華奢な肩は、乱暴に扱えば折れてしまいそうだ。
「お嬢様! お嬢様、起きてください!」
がくがくと揺さぶられ、椿はまた目を覚ました。
「あ……また寝ちゃってた?」
椿は悪びれもせずそう呟く。
「寝られてました……まあ、しょうがありませんね、毎日毎日机に向かって勉強では、眠くなるのも当たり前かと……先にピアノの練習にしますか?」
榊の気遣いに椿は頷いて隣室へ移動した。
リストの超絶技巧練習曲五番「鬼火」。
普通の教師ならショパンなどを弾かせるのだろうが、椿のピアノ教師はリスト好きらしく、前回は四番「マゼッパ」だった。
椿は技工を駆使した曲は得意なので難なく鍵盤に指を滑らせていく。
逆に技工よりも感情豊かな曲を弾かせると、だいぶ苦戦する。
ピアニッシモで重奏レガート奏法を涼しい顔で弾いていく椿だったが、途中テンポが狂い指を止める。