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虜 ~秘密の執事~
第1章
「これでは本当に鬼火が出てきそうですよ……」
珍しくそう軽口をたたいた榊を上目使いに睨みながら、椿はスコアを繰った。
その時、
「痛……っ!」
そう叫んで指を押さえた椿の手を、榊が慎重に取る。
人差し指の先から第一関節の間を、スコアの紙で切ってしまっていた。
うっすらと血のにじんだそれは、気が付くと榊の口内にあった。
跪いて椿の指先を己の唇に挟み、少し伏し目がちにされた榊のそんな姿が妙に婀娜(あだ)っぽかった。
ぬるりとした舌に、指先をちろちろと舐め上げられる。
「……んっ!」
小さい頃から榊にはこうやって止血されてきたのに、今日の椿は何故か舐められる度に背中にぞくぞくとした何かが這い上がる。
「……止まりましたね……お嬢様?」
一分ほどして唇を離した榊にそう声を掛けられ、真っ赤になった椿はぱっと立ち上がった。
榊が下から不思議そうな顔で椿を見上げてくる。
「す……好きでもないんだったら、もう、二度とこんなことしないで……」
「椿様……?」
弱々しくそう言い切った椿は、跪いたままの榊を残し私室から出て行った。
「もう、榊ったらいつまでも子ども扱いするんだから!」
熱くほてった頬を他の使用人に見られないように椿は庭園に出ると、薔薇の花壇の前に作られた東屋に収まる。
痛めてしまった人差し指を見ると、榊に吸われたからか赤く色づいていた。
ざあと風が通り抜け、椿の美しい緑の黒髪を巻き上げる。
白磁のように美しい頬はまだ朱を湛えている。
(でも……気持ち良かった……)
榊に指を舐められたとき、背筋がぞくぞくした。
エステ等でもたらされる気持ち良さとは違い、腰が蕩けそうになるそれに椿は戸惑う。
(いっぱい、いっぱいキスしてくれたらいいのに……)
椿も十六歳の女子だ。
人並みに性に対する興味もある。
しかし自分の初体験を捧げる相手は、もう既に決まっている――黒澤だ。
互いの親はそこまで話をしているようではなかったがおそらく今年の夏、軽井沢で処女を捧げることになるのだろう。