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実業家お嬢様と鈍感従者
第14章 エピローグ

一年半後――。

純白の婚礼衣装を纏ったアンジェラとヘンリーは、領地で行われたガーデンパーティーで皆から祝福を受けていた。

彼女は結局あの後、両親とヘンリーの勧めで女王に謁見し、社交界デビューを果たした。

その後ヘンリーと正式に婚約し、譲るはずだった会社を叔父と共同経営し、他にも証券投資会社を設立し、ヘンリーと実業家として歩んでいる。

そして今日、ヘンリーと晴れて結婚した。

結婚を一年半も先に延ばしたのは、他ならないお父様からの切望だった。

今年、妹のスージーを社交界デビューさせた後、アンジェラに爵位の継承権を捨てて欲しいとの頼みで、二人はそれを了承した。

そしてちゃっかりした妹は、社交界デビュー直後、一目ぼれしたスコットランドの公爵家次男と婚約してしまった。

半年後彼女は結婚し、正式にノースブルック子爵の称号を賜ることになっている。

おめでとうと客から祝いの言葉を受けるたび、アンジェラはまるで自分は天国にいるのではないかと錯覚してしまうほど幸福で、ふわふわと地に足が着いていないような感覚になる。

「ダーリン、お酒にでも酔いましたか?」

ポーっとしていたアンジェラの腰を少し引き寄せて、ヘンリーが甘く囁く。

「シャンパンをちょっと飲んだだけなの。でもふわふわして気持ちがいいわ」

そう返した彼女にヘンリーは苦笑いをすると、近くの椅子に座らせた。

純白の燕尾服を着た彼を仰ぎ見る。

軽く後ろに流された髪も、均整の取れた体躯も、いつもより優しく緩められた表情も、とても素敵でじっと見つめていたいような、気恥ずかしくて目を逸らしたくなるような気もする。

(素敵な素敵な、私の王子様)

「ヘンリー、王子様みたい」

幸せすぎて舞い上がったアンジェラが発したその言葉に、ヘンリーは苦笑する。

「まだ『恋の駆け引き』をやっているのですか?」

「違うわよ! もう!」

前も同じように取り合ってくれなかった事を思い出して、彼女は頬を膨らませる。

「膨れっ面でも可愛いですよ、私の天使(エンジェル)」

「………っ!」

いつもはそんな事を口にしないヘンリーにいきなり「天使」などと恥ずかしい事を言われ、アンジェラは絶句する。

ああそうか、彼だって自分に「王子様みたい」と言われて恥ずかしかったのだなと、今になってやっと理解した。

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