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実業家お嬢様と鈍感従者
第13章 タイムリミット
彼の綺麗な指が、彼女の下唇の輪郭を辿るようにそっとなぞった。
覗き込んで来る彼の瞳が熱っぽく濡れて、小刻みに震えている。
(私を、女として、欲してくれるの?)
「……私のこと……好き……?」
精一杯搾り出した言葉は、情けなく震えていた。
「はい」
ヘンリーはアンジェラの顎に手をかけると、執拗に上唇を指で撫で、くすりと小さく笑った。
「……私のこと……欲してくれるの……?」
そう彼に確かめながら、心の中で彼女は「私が欲しいって言って!」と必死に懇願していた。
ヘンリーは大きく頷くと、きっぱりと言葉にしてくれた。
「貴女が欲しい。例えお嬢様が嫌だと言われても……貴女を攫って行きます」
「……ヘンリー」
アンジェラの頬に堪えきれなくなった涙が伝っていく。
(やっと……叶う。貴方と一緒に歩む未来が――)
目の前で愛しそうに自分を見つめてくれるヘンリーの輪郭がぼやける。
幻の様に消えてしまわないよう、アンジェラは瞳を瞬いて次々と溢れ出る涙を視界から追いやる。
彼はきちんとそこに居てくれている。
ちゃんと自分自身を見てくれている。
そう確信した彼女は、もう涙を堪えることなく泣きながら口を開いた。
「ヘンリー……貴方を、愛しているわ」
「私も、アンジェラを愛している……もう二度と、離さない……」
そうして、二人は吸い寄せられるようにキスをした。
そのキスは、アンジェラが今まで思い描いてきたどんなキスよりも、甘くて、切なくて、素敵で、そしてちょっぴり血の味がするキスだった。