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実業家お嬢様と鈍感従者
第14章 エピローグ
これでは妹にまた「馬鹿ップル」と言われてしまうと、二人は顔を見合わせて噴出した。
広い庭を振り返ると、妹が婚約者と仲むつまじそうにしているのが目に入る。
小さく手を振ると、こちらに気付いた彼女がいつもの少し斜に構えた笑顔を返してきた。
さらに奥では父と叔父が自分達の顧客でもある紳士達と、葉巻を燻らしているのが目に入る。
愛情表現の不器用な父が、十八歳と二十五歳というまだ頼りない若い実業家の二人の為に影で方々に手を尽してくれている事は、ヘンリーに聞かされて初めて気づいた。
心の奥がほんわりと暖かく、幸せな気持ちで満たされる。
(ちゃんと周りを見られる大人になろう。私に関わる全ての人に感謝の心を忘れないように……)
幸福とお酒に酔って気が大きくなってしまったのだろうか、アンジェラはヘンリーにいつか謝らなければと思っていたことを口にしていた。
「私ね……、貴方が十七歳の誕生日前日に会いに来てくれた時、貴方をこのまま閉じ込めて『愛人』にしようかと思ったのよ? 今から考えるとほんと……どうかしていたわ……。身体だけ手に入れたって、心を貰えなければ何の意味もないのに」
「ふむ、『愛人』ですか……それもいいですね」
呆れられるだろうなと思っていたアンジェラの予想を裏切り、ヘンリーは胸の前で腕を組みしたり顔でそう応えた。
「……え?」
「だって、アンジーの寵愛を一身に独り占めできるのでしょう? 貴女の事を四六時中想いながら毎日を過ごせるなんて、とても魅力的です。それに……」
「それに?」
言葉を途中で切ったヘンリーに首を傾げて見上げると、彼は屈んでアンジェラの耳元でそっとこう囁いた。
「私も貴女をベッドから離さないでしょうしね」
ヘンリーは今までに見せたことの無い、艶めかしい微笑を浮かべた。
そして真っ赤になった彼女を見つめると、心底楽しそうに笑った。
《了》