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実業家お嬢様と鈍感従者
第9章 求婚
ヘンリーはポーラのほうを振り返りもせずそう言うと、着替える為に足早に屋敷のほうへ引き返して行った。
その場に取り残されたアンジェラは、しょうがなくポーラのほうを向き直る。
すると彼女と目が合い、深々とお辞儀をされた。
アンジェラも頷いて会釈を返すと、そのまま厩舎へと沈んだ足取りで歩を進めた。
厩舎で二人分の乗馬の準備を頼んでいると、早々に着替えを追えたヘンリーが駆けつけた。
ものすごく早い準備であったのに、乱れたところ一つない彼の凛々しい乗馬服姿に惚れ惚れする。
アンジェラの愛馬である栗色の毛並みが美しいエリザベスに跨ると、久しぶりの感覚に嬉しくなってその身体を撫で回す。
彼も用意された白馬に跨ると、彼女の前をゆっくりと駆け出した。
徐々にスピードを上げて草原を駆けていくヘンリーの姿を横目で追う。
これが本当の白馬に乗った王子様だわ……とアンジェラは夢見心地になったが、しかしそれも一瞬の事で、頭の中はポーラの事でいっぱいになった。
(ポーラにあって私に無いものって、何だろう……可愛さ? 女らしさ? 性格の良さ? 器量とか……常識とか?)
しかし暫くして、ずらずらと列挙した彼女にあって自分に無いものリストを、アンジェラは頭の中から抹消した。
たぶんそういうことじゃないのだろう。
きっとヘンリーはアンジェラがそれらを身に付けても愛してはくれない……自分が彼をそうでないのと、多分同じ。
ヘンリーは彼が言うアンジェラに相応しい男性である貴族の子息達が、生まれながらに手にしているものを持ってはいない。
逆に貴族の子息がヘンリーの持っているものを手にしたとしても、アンジェラはそれだけで彼らを好きにはならない。
だから、やっぱり自分自身を好きになってもらわないといけないのだ。
分かっている……そんな事は初めから百も承知だ。でも――、
「……焼もち位……焼くのよ……私だって……」
知らず知らず、口から呟きが漏れた。
横を走っていたヘンリーが「何か?」と大きな声で尋ねてきたが、アンジェラは「何でもないっ」と喚いて頬を膨らませて見せた。
彼はその仕草が面白かったらしく、頬を緩めるとまた前を向いた。