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実業家お嬢様と鈍感従者
第9章 求婚
ヘンリーも何処かに行っている様なので、アンジェラは一人で愛馬とその辺を散歩でもしよう思いつく。メイドに手伝ってもらい乗馬服に着替えると、従僕に重厚な飾りとノッカーの付いた正面玄関を開けてもらい外に出た。
領地の館は戦乱に耐える堅牢な中世以来の城で十七世紀以降、改築改装が重ねられ、現在の住み心地の良い館になったらしい。
館の四方にある小さな尖塔が少し可愛くて、アンジェラは小さい頃から気に入っていた。
その館を背に、裏手にある厩舎まで足取りも軽やかに向かう。
久しぶりの乗馬に心が浮き立ち、手にしていた鞭をくるくると振り回して遊ぶ。
「本当……で……いの……ヘンリー……」
突如耳に飛び込んできた女性に声に、自然と足が止まる。誰かが彼の噂でもしているのかと首を巡らせて辺りを見渡すと、開(ひら)けた視界の先にある小屋の裏に人影があることに気付いた。
(ヘンリーと……誰……?)
そこにはヘンリー本人と、黒いドレスに白いエプロンドレスを付けたメイド姿の赤毛の女性がいて、なにやら親密そうに話をしていた。
アンジェラは彼女の外見からポーラだと納得した。
スージーの報告では容姿はそんなに……との事だったが、遠めに見ても可愛らしい人だと分かった。
立ち聞きをしているような罪悪感が芽生え、脳がこの場所を早く離れろと信号を送ってきたのだが、何故だか足に根が生えたようにアンジェラの身体は動いてくれない。
そのうち、ポーラのほうがアンジェラに気付いて
「アンジェラ様」
とこちらにも聞こえる声で言った。
その言葉にこちらを振り返ったヘンリーと目が合う。
「じゃあ、頼んだ……」
彼はポーラにそう言い残して、立ち竦むアンジェラのほうへ小走りにやって来た。
「お嬢様、乗馬ですか?」
彼女の格好からそう判断した彼が、いつもと変わらない様子で話しかけてくる。
「え……ええ」
「私もご一緒します。直ぐに着替えてまいりますので、申し訳ありませんが厩舎で少しお待ち頂けますか?」
「え……でも、彼女……」
ちらりとポーラのほうを見ると、彼女はまだこちらに向いていた。
「話は終わりましたので、問題ありません。では」