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実業家お嬢様と鈍感従者
第10章 意中の彼を落とす作戦・六 汝、適度なスキンシップを心掛けよ!
領地での生活も落ち着き、アンジェラは暇な時間を使って取り寄せた大量の書物を読破する事に燃えていた。
しかし、アンジェラが暇と見て取った母に会うたびに「花嫁修業をなさい」と迫られ、彼女は今日もそんな母と手先の家庭教師から逃げるべく、分厚い本と大きなクッションを小脇に抱えてそっと私室を抜け出した。
行きがてら、視界に扉が大きく開かれた図書室が入る。
そこには重厚な装丁が施された厚さ十センチもの書籍が整頓されて保管されていた。
その壮麗な風景はこの館の主の教養の深さを物語り……否――実は十九世紀の貴族のカントリーハウスの図書室は、その主の知性の片鱗を客に見せつける為だけの物であり、実際はその書物は一度も手に取られることもなく、酷いことにその書棚の一部は書籍に見せかけた隠し扉だったりする。
アンジェラは今日も誰もいない図書室を横目で見ると、肩を竦めて通り過ぎた。
領地の良い所は、庭園が広くて隠れ場所が多いところだと思う。
その中でもお気に入りなのは薔薇の庭園に作られた小さな東屋だった。
ここは屋根があるだけの小さな露台だが、そこに大きなクッションを置いてそれに凭れ掛かって読書をすると、誰にも邪魔されないし薔薇の馨しい香りが時より漂ってきて、まるで天国にいるような気分になれるのだ。
庭に出るまで屋敷内で数人の使用人に見つかったが、人差し指でシーという仕草をすると、事情を察した皆は苦笑いをして見逃してくれた。
そしてやっと辿り着いた定位置にほくほくした気持ちで落ち着くと、経営学の書物を紐解いた。
暫くは何度か体勢を変えて読書に没頭していたが、気がつくとアンジェラはウトウトとまどろんでいた。
「本当に貴女は、どこででも寝てしまいますね」
掛けられた声に目を覚ます。目を擦って見上げるとそこにはヘンリーが呆れ顔で立っていた。
「ね……寝てないもの、読書していたの」
アンジェラは対して意味の無い言い訳をしながら、書物を見せる。
するとヘンリーはそのタイトルに興味を持ったみたいで、「どうですか」と聞いてきた。
その時、アンジェラの脳裏に妹から言われた次の作戦『意中の彼を落とす作戦・その六 汝、適度なスキンシップを心掛けよ!』が浮かんだ。