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実業家お嬢様と鈍感従者
第10章 意中の彼を落とす作戦・六 汝、適度なスキンシップを心掛けよ!
「ちょっと興味深いところがあるの。ここに座ってヘンリー」
自分の座っている隣をぽんぽんと叩いてみせると、ヘンリーは困った顔をして見せる。
アンジェラはそんな彼の腕を引っ張ると、強引に隣に座らせてその膝に開いた書物をどんと乗せた。
彼は諦めたようで「どれどれ……」と書物を覗き込んでいる。
「ここの解釈なのだけれど……私は教授の仰っていた……」
そう言いながらヘンリーの黒いお仕着せの腕にそっと手を置き、アンジェラも書物を覗き込む。
自分でやっておきながら、彼女の心臓が鼓動を早めていくのを感じる。
ヘンリーの反応はよく分からなかった。
本の内容に熱中しているのかアンジェラの手を振り払ったりする事はなかったが、だからといってそのポーカーフェイスの表情に動揺しているようなそぶりは全く無かった。
(う~ん。腕に触るのは効果が無いのね……次は膝にでも触れる? ていうか、私……なんだか変態みたい……)
口ではヘンリーとの会話をこなしながら頭の中ではそんな事を考えていると、ざあっと少し強めの風が吹いて、書物がぱらぱらとくられた。
「っ……」
彼が小さく呻いたのに気がつき振り仰ぐと、片目を手で押さえた。
「どうしたの? ゴミでも入ったのかしら?」
そう尋ねたアンジェラにヘンリーは目を瞬かせて「大丈夫です」と言ったが、それでも痛そうにしていた。
彼女はヘンリーが目に伸ばした片手を取ると、腰を浮かせて彼の緑色の大きな瞳を覗き込んだ。
「大丈夫です、お嬢様」
強く窘めてくるヘンリーを無視し、動かないよう彼の頬にもう片方の手を添えて注意深く瞳を覗き込むが、ゴミは見つからない。
上を向かせたり下を向かせたりしたが中々見つからず、アンジェラは更に彼に接近して覗き込んだ。
「う~ん、虫でも当たって出て行っちゃったのか……」
そう言い掛けたアンジェラの唇に、ヘンリーの熱い息が掛った。
我に返ってみるとお互いの鼻が触れる位まで間近に彼の顔があった。
彼の翡翠の様な美しい瞳が、じっとアンジェラの瞳を覗き込んでいた。
そこにはいつものヘンリーの冷静で少し冷ややかにも感じる光は無く、代わりに潤んでなんだか熱っぽい色が浮かんで見えた。