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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ

そう自分に言い聞かせるように言葉にしてみる。

口から発せられ耳で拾ったその言葉は、やはりまだ絵空事のようで、自分の中に現実味を持ったものにはならない。

一人でぶつぶつ言うアンジェラを心配したのか、エリザベスがまるで慰めるかのように、その長い顔を彼女の顔に擦り付けてきた。

「ふふ、励ましてくれるの? 優しい子ね」

くすぐったくてついつい漏れた笑いは、湿度を持った空気に吸い取られるように直ぐに消えてしまった。

(彼は、私の事を魅力的な女性だと言ってくれた……。それでもう、充分……)

「もう、会えないけれど……、元気にしているのよ……」

馬の顔を一通り両手で撫でまわすと、アンジェラはその景色を目に焼き付けるように見つめ続けた。



夢を見ていた。

とても幸せだった頃の夢を……。

ヘンリーがロンドンのパブリックスクールに通っていた頃、アンジェラはよく彼の終業時間を狙ってタウンハウスから学校までお迎えに行っていた。

もちろん屋敷の者達は皆大反対で、家庭教師は膨大な宿題を出し、終わるまで子供部屋(ナースリー)から出してくれなかった。

しかし、少しでも早く彼に会いたいアンジェラは無我夢中で宿題を終わらせ、焦る使用人達を振り切って、ウェストミンスター教会にある学校まで馬車を走らせた。

「お嬢様、またですか」

無理やり馬車に同乗してきたレディーズメイドの制止を振り切り、校門の前に立っていると、彼女を見つけたヘンリーが慌てて駆け寄ってきて困った顔でそう言う。

ハローハットを浅く被り黒のジャケットと濃紺のタイをしたヘンリーは、彼女にとってどの貴族子息の生徒達よりも素敵に見えた。

「だって、早く会いたかったのだもの!」

昔は彼女がそう言って甘えると、ヘンリーはアンジェラを抱き上げて馬車に乗せてくれた。

しかし、ヘンリーが十六歳になった頃から、彼女を抱き上げることはしなくなり、代わりに淑女に対する方法と同じように、手を取って馬車に乗せるようになってしまった。 

そうだ、学校に入学した頃から、ヘンリーは彼女の事をアンジーの愛称ではなくお嬢(アンジェラ)様と呼ぶようになったのだ。

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