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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ
領地にいたときの彼は、やんちゃで悪戯っ子でいつもアンジェラにちょっかいを出しては、やりすぎて彼女を泣かせていた。
しかし、彼女が野犬に襲われそうになった時や、木に登って降りられなくなった時は傷だらけになって助けてくれた。
アンジェラが家庭教師たちに怒られた時はいつも泣きやむまで傍で慰めてくれた、そんな優しい子供だった。
しかし、ロンドンで学校に通い始めた彼は、大人しくて聞き分けのよい優等生になってしまった。
「お嬢様、私は使用人です。いつまでも子供の時のようにはいられないのですよ」
いつの間にか敬語を使うようになったヘンリー。以前は「俺」と言っていたのに「私」と言い、「主人」と「使用人」の違いについて言い聞かせる彼を見ていると、アンジェラはいつも悲しくなってしゅんとしてしまった。
落ち込んでしまった彼女をヘンリーは暫く放って置くが、たまにアンジェラが勉強や習い事をものすごく頑張った時や元気のない時は、馬車を止めさせて可愛いお店に連れて行ってくれることがあった。
小さい頃の彼女はビスケットやキャンディー、可愛い置物に目がなくて、きゃあきゃあ喜んでいるのを、ヘンリーはいつも目を細めて見つめていた。
「お嬢様、ただ外に出たいから私を迎えに来てくださるのでしょう?」
ヘンリーはそう言ってアンジェラをめっと叱るが、彼女は何を言われても上機嫌だった。
店にいる客達や街頭を行きかう人々は、皆アンジェラ達を振り返る。
名門パブリックスクールの制服を着た端正な顔立ちのヘンリーは、どこに行っても目を引いた。
いつも使用人然として控え目にしている彼だが、ひとたび笑顔になると周りの者を魅了する不思議な力を持っていた。
近侍のお仕着せも、名門校の制服も彼以上に似合う者はいないわ。
いいえ、王様の着るマントだって、彼以上に似合う者などいないわ。
(素敵な素敵な、私の王子様――)
アンジェラはいつも決まって、満面の笑みで彼を見上げてこう言うのだ。
「ヘンリー、大好き!」