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幸せの頂点
第10章 卑怯
「ただいま…。」
小さな声が玄関でする。
「克っ!?」
急いで玄関に見に行く。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
克が弱々しく笑う。
私の顔を撫でる。
「ごめん、本当にごめん。」
何故か克が慌て出す。
私の目に涙の跡を見つけたから…。
克と別れると決めて流した涙を克は心配を掛けた涙だと誤解する。
「紫乃…、本当にごめんね。」
そっと克が私を抱き締める。
お酒臭い…。
「飲んでたの?」
「うん、会社の同僚が6月に結婚するんだ。社内恋愛って奴。そいつに呼び出されて飲む羽目になっちゃって紫乃に連絡を入れたかったけど、そいつがやたらと絡んで来るから出来なかったんだ。」
「大変だったね。」
「本当に迷惑。次はお前の番だとか…、今すぐに紫乃を呼び出せとか…。そんな風に絡まれたら連絡なんか出来ないっつうの。」
ちょっと胸が痛くなる。
克の会社では克に結婚を考える恋人が居ると知られてる状況だ。
今、別れ話をすれば間違いなく克を傷つける。
克の会社での立場まで悪くしてしまう。
怖くて克と話が出来ない。
ギュッと克が私を抱く手に力を込める。
「ねえ、紫乃…。」
そっと私の首筋に克がキスをする。
酔ってるから少しだけ克が大胆になってる。
チュッ…。
チュッ…。
克がキスを繰り返す。
このまま克に身体を許せば部長を失う事になる。
「克っ!お腹は空いてない?」
この状況を誤魔化すように克に言う。
「軽く食べて早く寝たいかな…。」
「お茶漬けにする?すぐに用意するからお風呂に入って来てよ。」
「ありがとう、紫乃…。やっぱり紫乃は優しいね。」
私の頬にキスをした克がお風呂へと消えてくれただけで腰が抜けそうになる。