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幸せの頂点
第13章 安泰
荒っぽく車が路肩に停まった。
「俺と居るのを見られたら紫乃は困るってか?」
不機嫌な声…。
「今は…、まだ…。」
克と別れてない以上は堂々とする気分になんかになれはしない。
「ふーん…、さっさと降りろ。」
部長が私に興味を失くしたように言う。
胸の奥がチクチクする。
部長に捨てられる恐怖が湧いて来る。
身勝手だとはわかってる。
克さえ居なければと克を逆恨みまでしてしまう。
「お先に失礼致します。」
部下として上司に頭を下げて車を降りた。
私が降りた車は乱暴に走り去る。
怒らせた…?
不安が雪のように降り積もる。
だって…、仕方がないじゃない…。
自分に何度も言い訳する。
そうやって我慢する癖がある女なんだもん。
部長が言うように何でも我慢して来た。
全てが欲しいなら我慢してでも手に入れる。
そうやって私はここまで来た。
克好みの控えめな女に…。
克の自慢になる仕事が出来る女に…。
どんなに辛くても我慢をすれば、その先に幸せが待ってると信じて生きて来た。
部長みたいにストレートに自分を晒し、自分が欲しいからと強引に掻っ攫う生き方なんか知らない。
だから怒らないでよ…。
このまま貴方が居ないと生きていけなくなる自分が怖いのよ。
重い足を引き摺るようにして百貨店に向かった。
まずは店舗の確認作業。
売れた商品の補充。
それからバックヤードの整理と在庫の確認。
例の幻のトマトは相変わらず金曜日の入荷で土日に必ず完売してる。
生産者の老人からは今からが本当のトマトの季節だから今までの3倍の出荷が出来るかもしれないと嬉しい連絡を貰ってる。