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幸せの頂点
第15章 破局



翌朝は山葵農園を訪ねた。

こちらは藤原の紹介だという言葉だけであっさりと契約がまとまった。

昼過ぎには東京に戻れた。


「全部、終わらせたら帰って来い。」


部長はそう言って私の前から立ち去る。

帰る?

何処に?

自分の居場所を見失い迷子になった私は克と暮らす家に帰る。

帰っても克の居ない部屋…。

やっぱり、あれは克だったと確信だけは手に入れた。

ただ克が帰って来るのを待ってた。

その日は克が帰って来る事もなく翌日の私は百貨店に出勤する。

克は今回の連休は中日も休みを取ったらしい。

そんな事も知らない恋人なんて有り得ない。

私はもう既に克の恋人ですらなくなった女なのだと実感する。


「阿久津さんっ!」


お昼休みに里緒ちゃん達とランチに向かえば美優ちゃんやナナさんが私の顔を覗き込む。


「はい?」

「佐伯部長の噂って本当なの?」

「はい!?」


私と部長の関係なら中途半端なままです。

そう言いかけた私に里緒ちゃんが


「社長のご令嬢とご婚約するって、メーカー営業の間で凄い噂になってるよ。」


と目を見開いて叫び出す。


「はいっ!?」


同じ返事を間抜けにも繰り返す。


「同じ部所の阿久津さんでも知らないの?」

「知らないわよ…。初耳…。」


私は本店に来てひと月ほどの社員だ。

その手の噂は新人には簡単に入って来ない。


「でも、佐伯さんなら有り得るよね。」


落ち着いた表情のナナさんが言う。


「なんで佐伯部長なら有り得るの?」


まだ部長に未練がある里緒ちゃんが口を尖らせる。


「佐伯さんって、佐丸の社長の息子さんだって聞いた事があるよ。」


ナナさんの言葉に私と里緒ちゃんだけが固まり美優ちゃんがキョロキョロとする。


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