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幸せの頂点
第16章 決意

古びた小さな商店街。
そこに母が居る。
父から教わった地図を頼りに母がやってるという小料理屋を探す。
『紫乃』と書かれた小さな看板のお店を見つけた。
娘の名前を使ってる以上は間違いなく私の母の店だと思う。
本当に小さなお店だった。
2階建ての建物の1階がお店。
暖簾がかかる木戸を開ければ10人も入れば満席になるカウンター席がある。
「いらっしゃい。」
カウンターの奥にある厨房から母が顔を覗かせる。
「お母さん。」
「あら、紫乃も来たの?」
私もという事はやはり父は毎週ここに通ってる。
「ご飯、食べる?」
真っ白な割烹着を着た母が嬉しそうに私を見る。
「食べる。」
注文する為のメニューなどがないお店。
私がカウンター席に座れば母が手際よく料理を出してくれる。
筋の煮込み…。
アサリの酒蒸し…。
ご飯というよりもお酒の肴だと感じる。
「今日はサワラの西京漬もあるわよ。」
「なら、ちょうだい。」
ヒジキやインゲンの胡麻和えなどの小さな小鉢まで母が魔法のように出して来る。
「相変わらずの手際だね。」
「でしょ?でも最近、やっとお店の雰囲気に慣れて来たばかりなのよ。」
この仕事が生き甲斐だと母が機嫌良く笑う。
私が母の料理を食べ始める頃には他のお客様も3人ほどやって来る。
「女将さんの娘さん?」
父くらいの年代と思うサラリーマン風の人が母に私の事を聞いてる。
後の2人は作業服の男の人。
どうやら母はこのお店の女将として殿方達からモテモテの時期らしい。
「そう、紫乃って名前は私の娘の名前だって前にも言ったでしょ。」
母が楽しげに笑ってる。

