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幸せの頂点
第18章 就職



「ちょっと来い。」


そう言った部長が私を立たせ廊下側にある部屋へと連れて行く。


「ここは?」

「俺の仕事部屋。」


初めて入る部屋。

他の部屋は人が住んでるのかが不思議なほどに綺麗にされているのに、この部屋だけは違う。

壁一面の戸棚には無造作に詰め込まれた本。

大きなマホガニーの机の上にはパソコンがあり高く積まれた新聞の山がある。

1冊を取って見ればそれは経済新聞だ。


「一般的に出回る先物取引の情報は株価の為だけの情報じゃないぞ。」


経済新聞から発せられる記事は海外から入る珍しい商品などの情報の確認になると部長が言う。

金本さんが仕入れたスパークリングワインの情報もそうやって集めたのだと理解する。

商品の情報集めの為にと、ここまでするバイヤーの存在に驚きが隠せない。


「部長…。」

「佐丸で親父並のバイヤーをやるつもりなら、この程度が出来て当たり前なんだよ。」


今の佐丸に本当の意味でのバイヤーは居ないと部長が言う。


「厳密に言うなら親父の指示で買い付けに行くだけのバイヤーしか存在しない。」


それは、うちの百貨店で部長が私達にしてたやり方そのものだ。


「だったら、部長も佐丸に戻ってお義父様と同じ事をすれば…。」

「地方百貨店だから出来た事だ。佐丸じゃ親父を超える商品なんか滅多に出ない。」


部長が泣きそうな顔をする。

私達が部長を超えられなかったように、部長の前には更に大きな壁が立ち塞がる。


「それでも…、あの部長と買い付けた幻のトマトは佐丸にはありません。」


部長が見つけた幻のトマト…。

あれは特別な商品であり間違いなく佐丸では取り扱いをしていない。


「そもそも品数が安定しない商品自体を佐丸じゃ取り扱わねえんだよ。」


部長が寂しい笑顔を私に向けた。


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