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幸せの頂点
第3章 失敗

その小さなビニールハウスに老人が私を招き入れてから3つほどのトマトをもぎ取ってくれる。
「あんたが食べたトマトはどれだ?」
3つのトマトの見た目は同じ。
後は手触りと香りで判断する。
皮が薄く、香りの強いものを…。
後の2つは皮が厚かったり、香りが薄い。
「多分、これ…。」
「食べてみろ。」
そう言われて齧るトマト。
甘味の強さはさっきとは比較にならないトマトだと判断する。
奥行きのある深い甘味。
「やっぱり、これです。」
私の言葉に老人が悲しげに笑う。
「このハウスで栽培してるトマトは同じ品種の同じトマトだ。その中で何故か特別なトマトが僅かだが生まれる。まさに幻のトマト。流通させられるだけの生産は出来ないんだ。」
だから奇跡のトマトだと老人が嘆く。
レストランなどで限られた流通しか出来ない理由を老人が話してくれる。
それでも…。
「あるだけでいいです。」
私はそれを願う。
無い時は未入荷の扱いにするだけだ。
幻があるというだけで集客率は断然に跳ね上がる。
あるだけを限定商品として出すのも百貨店というプレミアム感を持つ世界だから許される。
私は私の思いを老人にぶつける。
「少し…、考えさせてくれ…。」
老人は自信無さげに答えた。
「帰るぞ。」
これ以上の説得は無駄だと部長が私をビニールハウスから連れ出した。
「これって…、部長の仕事ですよね…。」
帰り道を歩きながら自分が利用された怒りを部長にぶつけてた。
「食品部の仕事だ。」
百貨店としての仕事だったと部長はとぼける。
本当にムカつく男だと私は部長を睨みながらヒールで歩きにくい道を歩く。

