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幸せの頂点
第19章 親子
SEXだけじゃない幸せを感じたかった。
ただ2人で居るのが当たり前なのだという感覚が欲しかった。
佐丸に相応しくない女だと言われる私を否定する安らぎを部長に与えて欲しかった。
「紫乃を否定とかさせねえよ。」
低く虎が唸る。
この人には私の不安が何故か伝わる。
そして必ず私の不安を取り除く。
だから絶対に失えない人。
部長のシャツを握る手に力が篭る。
「傍に居て…。」
それだけで幸せだから…。
それが私の幸せの頂点だった。
翌朝は2人でプールに行き泳ぐ。
インターハイに出たという部長の泳ぎに目を見開く私が居る。
バタフライ…。
泳いでる…。
いや…。
翔んでいるが相応しい。
部長の背中に羽根が生えたような水飛沫が上がる。
「なんつう顔してんだよ?」
ゴールした部長がゴーグルを額に上げて私を見ながら笑ってる。
「どうやって泳いでるの?」
「普通のバタフライだ。」
「普通じゃないわよ。」
「半端なく背筋を鍛えただけだ。」
「半端なくって…。」
1つの事に熱中すると自分を止められないのだと部長が言う。
「なんで水泳の選手にならなかったの?」
私の質問に部長が少し寂しい顔をする。
「一番になれなかった。それだけだ。」
何かを吹っ切るように部長が頭を振って髪から水飛沫を落とす。
一番になれなかった。
この人は何をするにも人の何倍も努力する。
それでも一番になれない世界がある。
バイヤーとしても彼の前にはお義父様が一番という立場で立ち塞がる。
親子だから…。
その存在を超えるのは難しい。
私の料理が母の味を超えられないのと同じ。
どんなに頑張っても母が存在する限り
『母さんの味だ。』
と父に言われ続ける事になる。