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幸せの頂点
第20章 対立
幾つもアーチを描く渡り廊下を抜け庭園の隅にある小さな東屋に辿り着く。
そこは扉らしい物も無く開かれた障子窓の向こうに美しい庭園の池が見える。
その池を渡り流れ込む風は涼し気で先程の蒸し風呂の様な空気を一掃してくれる。
「気持ちいい…。」
風が私の髪を撫でるように靡かせる。
「この東屋は普通の客は入れないからな。」
老人がどっこいしょと声を出し東屋に造られた長椅子に腰を掛けた。
「普通のお客様が入れない場所に入れるおじ様は普通の人じゃないという事なのね?」
藤原の代表かと探りを入れてみる。
老人はとぼけたように、ふふふと笑うだけ…。
この会話の感覚を私は知っている。
この先を知りたければ何かを失う覚悟が必要な会話を私は既に経験済み。
デジャヴの様な感覚の中でフワフワと宙を漂う考えが纏まらない。
この老人は…。
それを知るのが怖くなる。
藤原の関係者…。
それは私には手に負えないレベルの人…。
考え込む私の背後から
「こちらに居られましたか。」
と低く響く声がする。
その声に慌てて振り返る。
部長とよく似た声…。
だけど、そこに居るのは部長によく似た雰囲気を持つ立派な着物を着た男性だった。
厳つい強面なのに優しげで屈託のない笑顔を老人に向けた男性。
その男性に寄り添うように空色の着物を着た若くてとても綺麗な女性も居る。
一見しただけで彼らが恋人か夫婦だと感じる。
屈託なく笑う男性に穏やかな視線を送る女性。
羨ましいくらいにお似合いの2人だと思う。
「やあ、昌(あきら)君か…。いや、今は曽我社長と呼ぶべきかな?よくここに居る事がわかったね。」
老人は懐かしげに男性を見る。