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幸せの頂点
第20章 対立
「部長は何処ですか?」
敵意を向けるつもりはないが警戒は怠れない。
「神威なら姉の沙来(さらい)と居る。あれにはそろそろ自分の立場というものを充分に理解をさせなければならないからな。」
さっきまでの疲れ果てた老人の姿は何処にもなく今は目を光らせて獲物を狙おうとする老虎が私の目の前に現れる。
「部長の立場ですか?」
「あれは佐丸の唯一の跡取りだからね。」
「つまり私の様に何もなくつまらない女では佐丸の跡取りには相応しくないと?」
「そうは言っておらん。」
会長がまたしても、ふふふと笑う。
「おかしいですか?」
この笑いは毎回、馬鹿にされたようで気分が悪い。
「いや、どうやらあんたも神威と同じタイプのバイヤーらしい。欲しいと思うものには無理をしてでも手に入れようと躍起になる。」
「それがいけませんか?」
百貨店では、まずはバイヤーが欲しいと思うような商品でなければ売り上げすら上がらない。
だから欲しいと思うものは素直に欲しいと熱望する。
それがバイヤーには当たり前である習性だと私はいつも考える。
「何かを手に入れたいなら何かを犠牲にして手放す事になる。その手放したものの代償がとても大きいものだとしても欲しいものを手に入れる事だけに夢中になる人間はその価値に気付きもしない。実に人間とは愚かな生きものだ。」
哲学的な話を会長がする。
「何かを犠牲にする?」
「欲張ったところで人が持てるものは限られてるという事だ。」
そんな事はわかってる。
部長と居たいと思うから克を失う覚悟を決めた。
両方は手に入らない。
だからこそ偽りだと感じる幸せよりも本物の幸せを選んだつもりだ。