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幸せの頂点
第3章 失敗
「こうなるってわかってたなら先に言ってくれても良かったじゃないですか?」
「まさか初日から泊まる事になるとまでは思ってなかったからなぁ。」
「いつも来てたならわかってたはずです。」
「今日の失敗はお前がヒールだって事をわかってなかったんだよ。」
部長が私を真っ直ぐに見つめて来る。
どこか切なく悲しげな瞳にドキドキする。
「私が…。」
私が悪いと言いたいのか?
それを聞く前に部長が私を悲しげに見る。
「それは俺のミスだと思う。街を歩いた時は俺のスピードにお前はついて来た。ここに来てからお前のスピードがいきなり落ちた。それを計算してなかったのは俺のミスだとは認めてやる。」
潔い…。
そんなレベルの話じゃない。
私の歩く速度まで計算してたとか有り得ないと思う。
この状況で部長から変に謝罪を受ける自分に違和感を感じてる。
「次からは先に言って下さい。ヒールを履き変えますから…。」
部長の広い背中に向かって呟いてた。
「そうだな、でもお前ってバイヤーとしては悪くないよ。ヒールでこんな所までやって来ても泣き言の1つも言わねえんだからな。」
軽く首を捻って私を見る部長が笑ってた。
嫌味なニヤニヤとした笑いでなく優しく暖かい笑顔がチラリとだけ見える。
部長の為の仕事?
私の為の仕事だったかもしれない。
商品を求めて歩き回る時は私だって自分でヒールを脱ぎスニーカーに履き替える。
部長がトマトの生産者のところに行くつもりだと判断をした段階でスニーカーに履き替えたいと部長に自分から言う事も出来たはずだ。
私は部長の気に入らない部分ばかりを見てただけで自分から仕事をする姿勢を怠った。