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幸せの頂点
第21章 本来
「なるようにしかならないって事だ。」
部長が諦めたように私の首筋にキスをする。
旅館の女将に着せて頂いた浴衣…。
このレンタルの浴衣も藤原の経営する呉服屋の物だと聞いた。
全てが繋がりを見せる中で私だけが浮いた存在に感じてしまう。
だから部長にしがみつく。
「部長の傍に居たいだけなの…。」
それが私の幸せの頂点…。
「何が起きようと紫乃を手放す気はねえよ。」
笑って私が欲しい言葉を簡単にくれる。
その幸せに今は浸るだけの毎日。
きっとBeauの社長夫婦もそうなんだろう。
辛い事もあるかもしれない。
それは幸せの頂点を掴んだ人達が失う時間。
何かを手に入れれば何かを失う。
幸せを掴めば自由な時間を失う。
それでも構わないと思える人の傍に居たい。
「紫乃…。」
部長の手が私の浴衣の袂から入って来る。
「やだ…、仲居さんが食事の片付けに来るわ。」
「なら寝室に行く。」
食事の部屋と寝室は別室になる離れ…。
贅沢極まりない空間を用意が出来る藤原の力に改めて身震いする。
「寒いのか?」
「怖いの…。」
巨大な藤原と対等に渡り合った会長の跡を継ぐ。
私には無理だと思う。
部長ですら無理だと言ってた。
ならば本来の跡取りに任せて逃げるべき?
ぼんやりと考える間に部長が私を抱き上げる。
短い渡り廊下を抜けた先にある寝室。
和室なのに部屋の真ん中には清潔感を感じさせる真っ白なベッドがある。
ふかふかのそのベッドに下ろされた。
「気持ちいい…。このままぐっすり寝れるかも。」
至れり尽くせりの状況はまさに至福の時間…。
「寝かせるかよ…。」
不機嫌に部長が唸る声が最近は少し好きだと思う。
私の悪い冗談には必ず不機嫌になってムキになる。