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幸せの頂点
第5章 主婦
葉物は全滅に近いからと発注をやり直す。
前の売り場で私と契約してくれた生産者にも問い合わせをかける。
間に合わない…。
泣きたい気分のまま仕事をする。
バックヤードを走り回り、廃棄する商品を移動させる途中で嫌な風景が目に入る。
クスクスと笑う女の子の声…。
その女に被さるように壁際に手を付く大男の背中。
「どうしようかなぁ?」
甘えた声がする。
「頼むよ…。」
「だってぇ…。」
「借りは必ず返してるだろ?」
「ふふふ…、佐伯さんには逆らえないなぁ。」
他の売り場の女の子だと思う。
食品部とは違いエプロンをしてない。
百貨店の店員を証明する名札はしてるけども流行りの服を来た可愛らしい女の子と部長がイチャつく姿を眺めながら私は商品の片付けをする。
女は居ない。
彼はそう言った。
だけど不特定多数の女は居て、私はその1人という扱いなんだと感じる。
雑に扱われた野菜達と私は同じ扱い。
特別な担当者がいなければゴミのような存在にされてしまう。
私には克が居る。
お生憎様…。
次に私を柴乃と呼べば蹴飛ばして私に近寄るなと拒否の意思を示してやる。
あんなセクハラ部長になんか負けないから…。
モヤモヤとした怒りを廃棄する野菜達にぶつけて捨てていく。
この野菜達だって、ちゃんと調理されて誰かに食べて欲しかっただろうに…。
野菜に同情する事で惨めな自分を誤魔化す。
部長に弄ばれた事実を完全に掻き消す。
克だけを愛してる。
部長とは何もなかった。
そう思う事で自分の中の罪悪感を薄めてく。
卑怯だとわかってる。
ただ、そうしなければ立っていられない私が居た。