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幸せの頂点
第5章 主婦
「阿久津さん。」
そう呼ばれて顔を上げる。
「うわっ!?阿久津さんの顔…。」
私の顔を見て驚いた顔をする高崎さんが居る。
「顔?」
「泥だらけ…。」
ポケットから出したハンカチでそっと私の顔を拭いてくれる。
「あの…、大丈夫ですから…。」
高崎さんからはいつも克のような優しさを感じてホッとする。
「1人で無理する事ないよ。」
高崎さんが笑う。
「でも…。」
「佐伯部長が呼んで来いって…、阿久津さんの歓迎会に行くからね。」
部長の名を聞くだけで身体が強張った。
「お気持ちだけで結構です。」
私にはまだまだ仕事がある。
「ダメだよ。部長が呼んでる時は従うべきだ。」
高崎さんが厳しい表情に変わる。
「何故?」
この統括の部所では何でも部長の言いなりなのかと高崎さんを問い詰める。
「半年前の担当者は阿久津さんみたいな人だった。仕事にプライドを持ってて熱心で…。」
高崎さんが寂しく笑う。
「彼女は部長の言葉を聞かずに働いた。部長は本人が聞かないなら知らないとそっぽを向いた。」
あの部長らしいとしか思えない。
俺様に従え。
言う事を聞かない奴は要らない。
威圧的な部長だから…。
私もその部長に逆らって仕事をする。
その手を高崎さんが止めるように握る。
「彼女は流産した。」
私の手を握る高崎さんの手が震えてる。
「高崎さん…?」
「俺の彼女…、子供は俺の子だった。」
高崎さんの声が震えてる。
部長は止めた。
結婚を夢見て、妊娠する女性には厳しい仕事だからと止めたのに…。
部長に認めて欲しくて仕事で無茶をした彼女は流産する結果になり仕事を辞めた。