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幸せの頂点
第8章 店長
なのに私の視線はあの人を探してる。
お礼を言いたかった。
私に仕事を教えてくれた上に私を支えてくれたお礼を一言だけ伝えたい。
その上で私には克が居るのだと、あの人にわかって欲しかった。
私の視線に気付いた克が
「まだ、会う人が居るの?」
と聞いて来る。
「ううん…。」
小さく首を振る。
彼はきっと克と居る私を見るのを嫌がる。
克と腕を組んで百貨店を出る。
「帰ろう…。」
克と私の家へ。
克は少しだけ困った顔をする。
公共の場でベタベタとする行為が苦手な人。
わかってて私はあの人に見せ付けるように克の腕にしがみつく。
「紫乃…、どうしたの?」
帰りの電車の中で克から離れた私を克が不安そうな表情をして見る。
「別に…。」
克は私の恋人。
でも1歩離れれば他人に見える。
その隙間が寂しくて…。
その隙間を埋めて欲しい。
恋人という言葉に寄り添うだけの虚しい自分が不安で堪らない。
家に帰るなり克の腕に飛び込んだ。
抱いて…。
確かな導きが欲しい。
克が赤い顔をする。
「紫乃?久しぶりのお出かけに疲れちゃった?今日はもうゆっくりとしようね。」
私の頭を撫でてソファーに座らせる。
私の恋人は私と距離を置く。
私の幸せの頂点は乾いた空気が流れる。
寂しくてソファーのクッションを抱き締める。
幸せなんだから…。
何度も自分に言い聞かせてた。
夕方になり克の為に食事を作る。
買って来たトマトとベーコンを炒めてペンネパスタに絡める。
粉チーズをふんだんに掛けてサラダを盛り付けるだけの夕食。
「凄く美味しいトマトだね。」
克は仕事に必死だった私を理解してくれる。