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幸せの頂点
第9章 感覚
ここでも慣れたように部長が買い物をする。
ワインレッドのタイトなワンピース。
今日の私は白いブラウスにカーキ色のロングフレアスカートという地味な女。
その女が試着室の鏡の中で変わってく。
部長と並ぶのに相応しい女。
「そのまま着て帰る。」
部長が店員にそう指示を出し私の地味な服は紙袋に詰められる。
ヒールやバッグもワインレッドに合わせたものを部長が注文する。
「後はメイクくらいか。」
軽く私の顎を持ち上げて部長が顔を覗き込む。
少し前の私なら恥ずかしくて俯いた。
今の私は部長と並んで恥ずかしくない女になりたいとうっとりとして部長を見る。
1階のフロアに降りて化粧品売り場で部長がメイクを依頼する。
メーカーはさすがに私の好きなメーカーにしてくれたけど、こういう場所にやたらと慣れてる部長にドキドキばかりしちゃう。
私に似合うものを惜しげも無く買い与える。
この人…。
本当に何者なの?
お姉さんが高級百貨店でブランドランジェリーショップの店長クラスという事は理解した。
つまり部長は本来ならもっと百貨店内で地位の高い立場が望める人なんだと感じる。
それは私なんかが夢を見ていい立場じゃない。
平のサラリーマンを続けた挙げ句に妻に熟年離婚された父親の娘には似合わない世界。
今は夢を見てるだけ…。
すぐに部長が飽きて私を捨てる。
その時は克にも捨てられてるかもしれない。
私はこの人と浮気をしてる。
この一瞬の頂点の為に危険な恋をしてる自分に泣きたくなる。
「ランチにする。」
部長が最上階のレストランフロアに向かう。
高級フレンチ。
しかも完全個室。
首都圏を一望出来る部屋で私は部長と食事する。
出て来るお皿は最高級の食材をふんだんに使用した完璧なフレンチ。
一流のデートをあっさりとやってのける部長をぼんやりと眺める。