この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第9章 匿名希望【ビター・トラップ】
彼は一瞬面食らった顔をしたあと、訝ったような、かと思えば嘲ったような曖昧な顔で、はっと笑い混じりの息を吐き出した。

「ちょっと。本気で言ってんの? 君さあ、なんて言って俺を振ったか忘れた?」
「『浮気したからお別れしましょ』」
「そうそれ。最低だよね。俺、あの時はなんでもないみたいに振る舞ったけど、実は結構傷ついたんだよ?」
「うん。でも、隠して付き合っていられないくらい、私も君のこと好きだったの」
「だったら――」

 もしももう少しあの時大人だったら。もっとうまく振る舞えたんだろうか。

「……だったらどうして、浮気なんかしたんだよ」

 こんな悲痛そうな声や表情をその時知ることも、できたのだろうか。

「好きすぎて、少しでも分散させないと……壊してしまいそうだったのよ」

 お互いに。きっとどちらもまだ青くて、距離感を勝手に難しいものにしてしまっていた。
 なんて幼い。なんて無責任な恋心だろう。

「思い出すなあ。君の長い指で触れられるのも、君のおっきい肩にしがみつくのも、すごく好きだった。漫画喫茶でこっそりしたのとか、覚えてる? 声出しちゃだめってわかってたけど、君にそう言われたくて私、声出したのよ」

 ならば今あるこの感情は。いったいなんと名付ければいいだろう。
 欲情というにはあまりにしみったれて、愛情というにはあまりに希薄。せいぜい一時の情がいいところだ。だったら、プライドをかなぐり捨てるなんてわけもない。

「……したね、そんなこと」
「そうだ。はじまりも、私の浮気だった」

 無視すればよかった。
 立ち話で済ませて、それじゃあって告げて非日常に背を向ければよかった。
 グラスを重ねてしまったら、それだけで済まない夜もあると知っているはずなのに。あの日と同じように赤ワインを片手に、私はさらに、その感傷につけこんだ。

「駄目な人から私のこと、さらってくれたのよね」

 君の失態はたったひとつ。
 私のことなど、忘れていればよかったのに。

/120ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ