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スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第9章 匿名希望【ビター・トラップ】
ひどく性急な舌だった。温もってて柔らかくて、ねっとりと絡んでくる。おまけにブラウスの上からもどかしそうに身体を這い回る手は、じっとりと熱を持っていた。
つられるように息が上気して苦しくなり、身体の間に両手を滑り込ませてわずかに距離を取る。
触れた胸から伝う鼓動はとても速い。見上げた顔にはすっかり獣が住み着いていて、怯みそうになった。
「なんだよ」
「っ、君、そんな人だったっけ」
「煽ったくせに」
だめ押しのようなキスから、そのままもつれ合うようにして部屋を進む。バッグもお互い放り出して、ようやくベッドのそばにたどり着いた。
「脱いで」
青白い街明かりの差し込む中、彼の指がブラウスのボタンを外していく。
時折注がれるレンズ越しに視線。冷めたふうだけど、その実、滾っているのがいやというほどわかる。醸し出される凄みのようなものに思わずごく、と唾液を呑み込んだ。
まるで逃げないよう見張られてるみたい。ひりつくような怖さが、ブラウスを取り払われた肌を逆撫でる。
ブラジャーに包まれた双丘が作る濃い陰影をたどるように、彼の指が這う。それだけで私の身体は震え、はあっと深い吐息を吐き出した。
「相変わらずはっや」
「……なにが」
「んん? ……なんでも」
言う割には彼は、なんでもなくなさそうにくすくす笑って私の背のホックをぽつりと外し、再び私に口づける。
眩みそうになるキスの最中、スカートのファスナーをもどかしく下げ、彼の手伝いを受けながら腰を振って脱ぎ去った。
残りは、ショーツとパンプスだけ。そこで彼は私の手を取ると、「おいで」と優しく引き寄せた。
「……」
不安をかかえながらも導かれるままついていくと、彼はカラカラとベランダに通じるガラス戸を開けた。
「え――」
ロマンティックのかけらもない都内の夜景と東京タワーが眼前に広がって、湿度を含んだ風に全身を撫でられた。
そのまま彼は外に一歩出る。連れて行かれそうになった部屋とベランダの境目で私は、慌てて「ちょっと」と足を踏ん張った。
「ん?」
「そっち……」
「うん」
彼は薄く笑って身体半分私を振り返る。それから、
「ここのホテル、ベランダがほかの部屋とも廊下みたいに繋がってるんだ」
顎をしゃくり、『ほかの部屋』の方をにやにやと見遣った。
つられるように息が上気して苦しくなり、身体の間に両手を滑り込ませてわずかに距離を取る。
触れた胸から伝う鼓動はとても速い。見上げた顔にはすっかり獣が住み着いていて、怯みそうになった。
「なんだよ」
「っ、君、そんな人だったっけ」
「煽ったくせに」
だめ押しのようなキスから、そのままもつれ合うようにして部屋を進む。バッグもお互い放り出して、ようやくベッドのそばにたどり着いた。
「脱いで」
青白い街明かりの差し込む中、彼の指がブラウスのボタンを外していく。
時折注がれるレンズ越しに視線。冷めたふうだけど、その実、滾っているのがいやというほどわかる。醸し出される凄みのようなものに思わずごく、と唾液を呑み込んだ。
まるで逃げないよう見張られてるみたい。ひりつくような怖さが、ブラウスを取り払われた肌を逆撫でる。
ブラジャーに包まれた双丘が作る濃い陰影をたどるように、彼の指が這う。それだけで私の身体は震え、はあっと深い吐息を吐き出した。
「相変わらずはっや」
「……なにが」
「んん? ……なんでも」
言う割には彼は、なんでもなくなさそうにくすくす笑って私の背のホックをぽつりと外し、再び私に口づける。
眩みそうになるキスの最中、スカートのファスナーをもどかしく下げ、彼の手伝いを受けながら腰を振って脱ぎ去った。
残りは、ショーツとパンプスだけ。そこで彼は私の手を取ると、「おいで」と優しく引き寄せた。
「……」
不安をかかえながらも導かれるままついていくと、彼はカラカラとベランダに通じるガラス戸を開けた。
「え――」
ロマンティックのかけらもない都内の夜景と東京タワーが眼前に広がって、湿度を含んだ風に全身を撫でられた。
そのまま彼は外に一歩出る。連れて行かれそうになった部屋とベランダの境目で私は、慌てて「ちょっと」と足を踏ん張った。
「ん?」
「そっち……」
「うん」
彼は薄く笑って身体半分私を振り返る。それから、
「ここのホテル、ベランダがほかの部屋とも廊下みたいに繋がってるんだ」
顎をしゃくり、『ほかの部屋』の方をにやにやと見遣った。