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スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第9章 匿名希望【ビター・トラップ】
こわごわと顔だけ覗かせる。と、言われた通り、先の方まで見通せるひと続きのベランダが広がっている。
 外に出てる人こそいないけれど、ところどころもれる部屋明かりが、仮住まいの住人たちの存在を知らしめていた。

「おいで」

 同じ言葉で語気だけ強め、もう一度彼は私を誘う。
 外気は決して寒くはないのに、ひやりと嫌な汗が伝った。同じ高さで明かりが灯るビルもあれば、下からの喧騒だって耳に届く。どこかのサイレンもクラクションも、人の笑い声だって聞こえてくる。

「や、やだ……」
「平気だって」
「平気じゃな……」

 私の拒絶を鼻で笑った彼は目を細め、ショーツを掴んでぐいっと上に引っ張り上げた。

「ひゃん……っ!」

 急に擦られたせいで、意図せずおかしな声が躍り出る。
 布地が肌をずるりと滑っていったのは、すでにたっぷりと湿り気を帯びてしまってるからだ。呆気なくそれが暴かれ、彼の口角がますます加虐的に吊り上がる。

「これ、なんとかしたくない?」
「……っあ」

 不快になりそうなほどぬめりが密着して、私はぐっと奥歯を噛んだ。
 言葉が出ない。どうしたいとも、したくないとも言えなかった。すでに背徳を犯してる私にとって、彼がしようとしてることは、さらにそれを甘美なものにするだけだ。
 無言を肯定と受け取ったのか、彼はショーツを掴むのをやめ、私の手を再び引いた。
 まるで見せびらかしでもするように、ゆっくりゆっくり歩く。なけなしの羞恥心に襲われた私は咄嗟に胸を覆い隠して、小さな歩幅のおぼつかない足取りでついていった。
 やがて彼は、部屋離れた明るい部屋に、目をつけた。

 レースカーテンだけ閉めているようだった。テレビを見ているのか、青みがかった光がここまでちらちらと届く。それに伴って動く人影。

「……っねえ、やっぱりやめ、よう……?」

 誰ともわからない人間の気配にすっかり怖気づいて、小声でおずおずと提案した。だけど彼は鼻で笑い、私の両腕を掴んで手すり壁に縫い止めた。

「なら感じなきゃいい」
「なっ……」
「そうだろ? 不本意なら感じなきゃいい。声も出さず、濡らしもせず、俺が君を好きにするのを見てればいい」

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