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スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第9章 匿名希望【ビター・トラップ】
「なに?」

 はあっと太い息を吐いて、握った手をそっと連れてく。首、胸、お腹と降りて、その下。ショーツに隠れたその場所に触れてもらえるよう導いた。

「……さわって」

 すんでのところで彼の手が抵抗をみせる。

「……どうしようかな」
「もういや……」

 私の腰が自然と彼の手を迎えにいって、ようやくそこに指先が触れた。
 布が指のかたちに沈む。弾力を確かめるようにつつかれて、私の身体が歓喜に打ち震える。すると、彼は嘲るようにふっと笑った。

「やなんじゃなかったっけ」
「……」
「ぐっちゃぐちゃ」

 かり、とクリトリスを引っ掻かれて力んだ唇に、柔らかな感触が注がれる。
 付き合っていたあの頃、こんなに彼をほしいと思ったことがあっただろうか。夫に不満があるとか、そもそも欲求不満とか、そういうことはなにもないはず。だけど彼のことはずっと、記憶に残っていた。
 あんな男と付き合ってたら、君がもったいない。そんな口説き文句だった。翌日その恋人と会う約束をしていたのに、彼は私を夜中まで引き止め、そのままホテルに連れ去った。
 穏やかな顔に似合わず強引な人だとその時知って。気づけばすごく好きになってしまった。
 だけど、私は手放した。自らほかへ浮ついて遠ざけて。自分が傷つきたくなくて。

 口づけを重ねるうちに瞳が潤みだし、彼の顔が滲んでいく。

「……その顔」
「かお――?」
「うん。感じてる顔……好きだった」

 そしてまた、焦点が合わなくなるほど近づいた。

 こぼれそうでこぼれもしない郷愁のような恋心が蘇って、ふわふわと揺らぐ。
 だけど唇が離れたときにはもう、彼は獰猛そうな獣に戻っていた。

「押し付けなよ」
「え……?」
「窓ガラスに。おっぱい押し付けて」

 くるりと私の身体を振り返らせて、彼は耳元で囁く。
 部屋からもれる明かりに晒される身体。すでに隠したいのに、このガラスに、押し付ける?
 そんなの無理だ。そんなことしたら。もし見られでもしたらと、振り返った首を必死になって振る。なのにそれは聞き入れられることなく、窓に向かって肩を押され、誰かが日常をくつろぐ部屋はもうすぐそこに迫った。

「支えてるから。そしたらここ、直に触ってあげる」

 ここ、とつつかれた場所から悲鳴のような粘ついた音がした。

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