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第9章 立待月(たちまちづき)

「お兄様!」

「そしてあと四ヶ月はしないと、雅みたいなおしゃまな子は産まれてこないよ」

月哉は悪戯っぽく笑うと、雅をからかう。

頬を膨らました雅を、周りの皆がクスクスと笑う。

敦子だけはいつまでも硬い笑顔を強張った顔に張り付かせながら、雅を注意深く見つめていた。



(あの時は、これからこの二人は上手くやっていけるのか、心配だったが――)

「東海林、こんなところでどうしたの?」

気がつくと、雅が側に来て微笑んでいた。

「雅様……」

今日の雅の装いを見て、東海林は胸がざわめくのを必死でひた隠す。

会う度に女へと変化していく雅の身体は、濃紺のサテン生地に覆い隠されているが、そのまだ青さの残る色香は匂い立つように溢れ出て、見るものの視線と心を奪い去ってしまう。

そして最愛の兄の結婚式にも拘らず、雅の様子はとても落ち着いていた。

「雅様、大人になられましたね。奥様が雅様にいつも助けられていると、おっしゃられていました」

「お姉様には元気な赤ちゃんを、産んで貰わなければならないのですもの――。ねえ、東海林聞いた? 赤ちゃん、男の子なのですって」

「いえ、初めて聞きました。そうですか……男児を御出産されれば、少しは風当たりもましになるでしょう」

東海林はほっと胸を撫で下ろした。

「お兄様そっくりな男の子が欲しいわ……早く産まれれば良いのに――」

雅は夢見る様な顔で、うっとりと呟く。

「まだまだですよ、これからますますお腹が大きくなるのですからね」

「……まだまだ■■なければならないのね……」

雅はくるりと月哉達を振り替えると、独り言をぼそりと呟いた

「……え?」

雅が何を言ったのか確かめようと声をかけようとしたが、二人に気がついた月哉が手を振って寄越したので、東海林はそれきり聞くことができなかった。





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