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妹
第14章 有明月
「……月都には私達の思いは関係ないの。月都には生きる権利がある。だから、四ヶ月はお姉さまに母乳で育ててもらう必要があったの……そうしないとね、健康に育たないかも知れないらしくて――」
雅は弱々しく、しかしきっぱりと意思を伝える。
世の中にはミルクのみで育てられて健やかに育っている子は沢山いるというのに。
WHOの提言を疑いもせず鵜呑みにするところに、雅の幼いゆえの純粋さ、そして其れゆえの残酷性が表れていた。
『ばっかじゃないのっ! じゃあ最初から、月都は助けるつもりだったのね……』
美耶子と思われるほうは、怒るというよりは呆れ返っているようだ。
「ごめんなさい、私は美耶子を騙していたの……でも自分から言い出したとはいえ、本当に辛かった、この四ヶ月……。毎晩、もうお姉様を殺しちゃえって、思ったわ。でもね、でも……美耶子が居てくれたから――」
『……私?』
「ええ……美耶子は毎晩私に呆れながらも、傍に居てくれた……だから耐えられた。月都が生まれる前もずっと、本当はお兄様とお姉様を見るのが辛かったけれど、でも……やっぱり、美耶子が一緒に居てくれたから」
『そ……それはっ……しょうがなかったのよ! 雅が泣くと雅の中に居る私も、悲しくなっちゃうからさ――』
「美耶子……貴女も月都として、この世に残るの。月都の名前は美耶子、貴女から取ったのよ――」
何とか二階の踊り場に辿り着いた私は爪先立ちをして上を窺い見ると、四階の踊り場に喪服のまま、月都を抱いて蹲る雅が見えた。
「美耶子が私の身体を使っていたこの一年間、私も美耶子の怨み、憎しみ、後悔、孤独に共鳴していた――。美耶子は私とは真逆の性格で……明るくて、器用で、誰からも愛される愛らしさを持っていた。
美耶子の目から見た世界は、綺麗で、楽しくて、学園でも直ぐにお友達が出来たわ……。けれど、芯のところは私と同じ――、本当は淋しがりやで、不器用で、いつも愛に飢えていた――」
雅は静かな声で少しずつ丁寧に、相手に言葉を送る。
雅が差し出した片手の先に、ぼんやりと黒色の影のようなものが現れた。
私は何度も目を擦ったが影は消えず、網膜に焼き付いてしまいそうな強烈な存在感でそこにあった。
「貴女は私、私は貴女――。私……美耶子を愛しているわ――」
慈愛に満ちた微笑で、雅が影を見つめる。