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妹
第4章 弓張月(ゆみはりづき)
急にどもって赤くなった敦子を、雅は冷静さを何とか保ちながら観察する。
(今朝は社長と一緒にいたから走れなかったわ、の間違いでしょう――)
敦子からは見えない、雅の膝の上で握り締めたこぶしが怒りから小刻みに震える。
「あ、判例集取ってくるから待っていてね」
敦子がそう言って部屋から出て行ったのと入れ替わりに、開けてあった扉から南弁護士が入ってきた。
「高嶋君、鴨志田の不動産譲渡契約書と金消(きんしょう)来ているよ。今日持っていくでしょ……って、あれ、いないや」
南弁護士は部屋の中をさっと見回して、頭をかく。
雅は立ち上がって話しかけた。
「こんにちは、南さん。敦子さんならライブラリーに行かれましたよ」
「あ、雅ちゃん、こんにちは。今日は制服なんだね〜。食べちゃいたいくらい可愛い」
「午前中は学園に用事があったので……」
「鴨園学園だよね? まるで雅ちゃんの為にデザインされたかのように、似合っているよね」
南は子煩悩らしく、雅によく構ってくれる。
「そんな……ありがとうございます。その書類、宜しければ敦子さんに渡しておきましょうか?」
「そうしてくれる? 大事な物なんだ」
雅に書類を渡すと南は出ていった。
雅はすかさず中の書類を覗き見る。
(これは使えるかもしれない――)
書類を元に戻すと、敦子が判例集を持って帰ってきた。
「お待たせ」
「南さんから契約書を預かりました」
雅がそう言って敦子に封筒を渡すと、敦子は捺印等の必要箇所をチェックして鞄にしまった。
「じゃあ早いけれど、そろそろ行きましょうか」
敦子がパソコンをログオフしながら雅を促す。
「高嶋さん、木村先生が呼んでらっしゃいます」
廊下から他の社員が首だけ出して、敦子にそう言付けていった。
「は〜い、ごめんね雅さん。もうちょっとだけ待っていてね」
敦子が扉を閉めて再び出ていくと、雅はすかさず敦子の鞄を開けて封筒ごと書類を取り出す。
そして、迷わずデスクの後ろにあるシュレッダーに金銭消費貸借契約書を吸い込ませる。
シュレッダーはある程度の厚みのあるものでも詰まらず裁断するタイプらしく、呆気なく目の前から消えてしまった。
もう一冊の譲渡契約書はかなり厚く、雅はまずは袋とじを力でばらし、数枚ずつシュレッダーにかけていく。