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妹
第4章 弓張月(ゆみはりづき)

件名 明日の重役会議 時間変更の御連絡
内容 高嶋先生
平素よりお世話になっております。
明日、H社買収案件に付きまして予定しております重役会議ですが、
開始時間を当初の十六時から十五時に変更したく思いますが、先生のご都合は如何でしょうか。
もし、お時間のご都合が悪い場合は、弊社まで御連絡を頂けますでしょうか。
お手数をお掛け致しますが、宜しくお願い致します。
鶴見
「ふうん」
雅は口角をにいと持ち上げて嘲う。
パソコンをログオフにすると、使ったマウスを自分のハンカチで綺麗に拭き取る。
不備はないかデスクの上を確認すると、応接セットの所定位置に座り温くなった甘ったるいコーヒーを飲んだ。
数分すると、木崎が書類と大量のファイルを持って帰って来た。
「ゴメン雅ちゃん、退屈だよね」
「いえ、それより私で宜しければ、何かお手伝い致しましょうか?」
テーブルのコーヒーを端に避け、ファイルを置くのを助ける。
「申し訳ないけどお言葉に甘えちゃってもいいかな? この書類をPDFにしたいんだ、そのプリンターで読み取ってくれるかな?」
「はい、ええと保存先は木崎さんのパソコンで宜しいですか?」
書類を受け取りながら、木崎に確認する。
「うん、そうしてくれるかな。僕は自分の席でデータ整理してくるよ」
木崎が部屋を出ていくと、プリンター複合機でスキャンし始める。
袋とじされているため一枚一枚スキャンするのは骨が折れた。
単調な作業の繰り返しで、若干眠気が襲ってくる。
雅はちらりと敦子のパソコンを振り返った。
知らずしらず、口角が上がってしまう。
(さて、敦子さん。開封済みメールに気づく事が出来るかしら――)
*
取材五日目、最終日。
雅は午前中学園に顔を出し、午後十四時に事務所へ行くことになっている。
後藤から今朝は珍しく兄と朝食が取れると聞き、雅は朝から上機嫌だった。
食堂では既に月哉が着席し、新聞を開いていた。
雅は白いセーラー服の裾を翻して月哉の元へ小走りで駆け寄ると、おはようのハグをする。
兄は新聞を脇に置くと、雅の腰を絡めとり自分の膝の上に座らせて、頬に軽くキスをしてくれた。

