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第4章 弓張月(ゆみはりづき)

敦子の説明担当分は後にずらすので、とにかく出来る限り早く来て貰いたいと、東海林は言って電話は切れた。

メールチェックをしていたはずの敦子は、虚脱状態で携帯電話を握り締めていた。

常務秘書からのメールを確認したのだろう。

さしずめどう言い訳すればいいか、頭の中は大混乱というところか。

敦子は暫くそのまま微動だにしなかったが、はっと我に返って運転手に出来る限り急ぐよう懇願した。

掌で顔を覆って俯いてしまった敦子を見つめていると、雅は何故か口元が緩み始めるのを感じた。

俯いている敦子に見られることはないだろうが、運転手にいつ笑っているのに気づかれるかも分からない。

雅は鞄からハンカチを取り出すと、緩むのが止められない口元を押さえた。

(何故、こんなにも愉快なのだろう……兄に近付かないよう、この人を陥れようとしているだけなのに。何故――)

視界に敦子の姿を入れないように外に目をやっていた雅は、高架の下を通り抜けた際、暗くなったガラスに映った自分の顔に違和感を覚えた。

いつも見ているこの顔が、自分と瓜二つだが全く別人の少女のものに見えた。

しかし悦に入っている雅はさして気にも止めず、ただ今の高揚した気分にたゆたうばかりだった。



タクシーが本社に着いたのは、十五時の開始時刻から四十分経過した頃だった。

正面玄関には東海林が女性秘書と待っていた。

雅達は二人に促され、泡立たしくエレベーターに乗り込む。

とにかく謝罪をしようとした敦子を遮って、東海林が状況を手短に説明する。

「海外在住の重役を含め、次に一同が会すのは三ヶ月以上先になります。とにかくH社の係争事件についてのご説明だけは、お願いします」

重役会議室にたどり着くと、敦子は震える自分の手を握り締め大きく深呼吸し、女性秘書に伴われて入っていた。

雅は東海林に伴われ、後部の入口からそっと中に入る。

プロジェクターを使用しているため内部は暗く誰も雅に気づかなかったが、唯一月哉だけが気づき頷いて寄越した。

敦子は出だしは声が震え詰まりもしたが、準備に相当時間を費やしたのだろう、落ち着いて説明し質疑応答もこなした。

敦子が最後だったらしく照明が付けられ、会議は終了した。

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