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第5章 十三夜月(じゅうさんやづき)

すれ違う中等部の生徒達が「ごきげんよう」と挨拶をしてくれる。

雅はおしとやかに挨拶を返していく。

すれ違った女子生徒二人を何気なく振り返ると、彼女達は心底夏休みが楽しくてしょうがないと全身で表しているかのように、白いプリーツスカートの裾を翻しながら小走りして笑っていた。 

『……みやびちゃん、みやびちゃん……あそぼう……』

ふと、昔いた唯一の親友と呼べる友人の声が聞こえた気がして、雅はきょろきょろと辺りを見回す。

しかしそこにはもちろん誰もおらず、グラウンドの向こうにサッカー部の部員達が見えるだけだった。

(馬鹿ね、雅。誰も居ないわよ……私は誰とも仲良くなっては、いけないのだから――)

ありもしない幻を探そうとしてしまった自分を叱責して、きびすを返した。

生徒会執行部に顔を出すと、会長が前期末に取ったアンケートの集計を他の役員としていたので、雅もそれを手伝った。

数人の役員から、自宅でパーティーを予定していると招待状を渡された。

雅は帰って使用人に確かめないと分からないが、なるべく参加すると答えると皆誇らしそうに微笑んだ。

集計がひと段落し皆がカフェでランチをと誘ってくれたが、雅は食欲も無く、断って隣の理事室へ移った

静寂が辺りを包む。

先程までの喧騒が嘘のように、この学園には自分一人しか居ない様な気になる。

雅は最近一人になると、妙に感傷的になっている自分に気づくが、気分を紛らわすことも出来ず、気だるげに目を閉じた。


いつも豪奢な仮面を被り、虚勢を張って――。

私は、人に自分の弱さを見せることが出来ない。

私は、人に心を開くことが出来ない。

いや、私は……誰にも本当の自分を、見せてはいけないのだ――



雅はいつの間にか、備え付けのベッドで眠り込んでしまっていた。

目が覚めると理事室の中に西日が差し込んでいた。

時間を見ると夕方の十六時を指しており、雅は中国語の家庭教師のために慌てて帰宅した。

全ての予定を終わらせて夕食の時間になり、憂鬱な気分で食堂に行くと、雅が夏バテしたと思い込んだ料理長がさっぱりしたビシソワーズを用意してくれていたので、それだけは何とか平らげた。

「今夜もお兄様はお戻りにならないのかしら」

雅は昨日と同じ問いを使用人に繰り返すが、返事も同じものだった。

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