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ネコの拾い方…
第4章 それは幻だったから…
「いよいよ、卒業ですね。」
ソファーの前に座り頭だけをソファーに乗せた遼の髪に触れてみる。
「卒業しても下っ端は大学病院のERでコキ使われるだけや。」
「海外から引き抜きがあるでしょ?」
「んー…、今んとこは至れり尽くせりの環境よりも殺伐とした現場の方がええわ。」
「何故?」
「しんどい事は若いうちしか出来んからな。悠々自適は年寄りになってからって思うとる。」
僕が髪を撫でれば遼が目を閉じて眠る。
僅かな時間でも、傍に居られるだけで良いと思う。
彼が望む限り、僕は彼の傍に居られる。
そんな穏やかで甘美な時間はあっという間に流れ去る。
僕の卒業間近に迫ったある日…。
僕の前に現れた遼はまだ1歳にもならない赤ん坊を抱えてた。
「医者、辞めるわ。」
遼は僕を見ず、赤ん坊だけを見て言う。
「…っ…なんでっ!?誰にも真似が出来ない外科医になるのが先輩の夢じゃなかったのですか?」
またしても僕は取り乱す。
遼の前では上手く自制心が保てない。
「んー…、今は医者よりも、こいつの親父がやりたいんや。」
あっさりと答える遼に幻滅する。
何かあれば必ず呼べと言ったのは貴方の方だったのに…。
「父親なんか医者をやりながらでも出来ます。」
「俺はこいつが憧れるようなかっこいい親父になりたいんや。それは簡単な事とちゃうと思う。それよりも清太郎…。」
やっと赤ん坊から視線を僕に向けてくれる。
「自分の未来を諦めるな。清太郎こそ才能があるんやからなりたいもんになれよ。」
「そんなものっ!」
「いつか、また何処かで会おな。」
一方的な言葉を残して遼が立ち去る。
藤原が遼を見捨てたように、遼は僕を見捨てた。