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黄昏異変 肉欲の奈落
第1章 女医 早苗
 海葬の日の朝、喪服を着た二人は駅で落ち合うと電車で平塚駅に向かった。
 平塚新港は平塚駅からほど近い相模川の河口にあった。
 河口の先には青い海が広がり、背後には、薄っすらと雪化粧した美しい富士が聳えていた。
 港に立った浩二には、早苗がこの相模の海を海葬に選んだ理由がよく分かった。
 海も山も川も終焉の地に相応しい装いをしていた。

 出航まで時間があったので二人は海岸を散策した。
 しばらく歩くと早苗が急に立ち止まった。

 「乾さん、わたし、好きな人が出来たの」

 思いがけない早苗の言葉に浩二が振り返った。

 「そう、そりゃあ良かったねえ。お母さんもきっと喜ぶよ」
 「フフフ」悪戯っぽく早苗が笑った。

 「誰を好きになったのかお聞きにならないの、乾さん」
 「どんな人。そりゃ知りたいなあ」
 「乾さんの知ってる人よ」
 「エッ、知ってる人・・・・いるかなあ、君が好きになるような男が僕の回りに」

 意外な展開に浩二はいささか面食らった。

 「誰よ、その人。もったいぶらずに教えてよ」
 「乾さんよ」

 そういって早苗が浩二の手を取った。

 「何だ、僕か。僕だって早苗さんが好きだよ。これからは父親代わりにお付き合いできるといいね」

 と言いつつも、浩二の心臓は一瞬パクパクッとした。
 浩二の手を取った早苗の手にギュゥッと力が入る。
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