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黄昏異変 肉欲の奈落
第2章 取締役経理部長  ユカリ
 「フフフ、疲れも吹き飛びました?」
 「ユカリさん、からかわないでよ。そりゃ僕だって、君のような若い女性に誘われたら疲れも吹き飛びますよ。別に変な気持はないよ・・・。でもね・・・」
 「でも・・どうなの」
 「・・・」
 「でも、少しはあるの」

 浩二は立ち止まった。

 「やっぱりよすよ。誰かの目に留まって、君に迷惑掛けてもいけないし」
 「かまいませんよ。子どもじゃないんですから」

 ユカリは、浩二の手から水着やタオルの入った袋を奪うように取って歩き出した。
 
 (わたし、何をしているのかしら?)
 
 ユカリには、浩二を誘った自分が不思議に思えた。
 一人暮らしの女が自宅に男を誘うことが何を意味するか。
 でも、どこか、誘っても安心な雰囲気が浩二にはあった。

 (変な気持ちが少しあるのは、わたしかしら)

 ユカリは自分のどこかに浩二を誘惑する自分を見つけて驚いていた。
 
 浩二は仕方なく後を追った。
 焦りは禁物。慎重に、慎重にとこっちが思っているのに、相手がやけに積極的だ。

 (ホントにいいの?)

 二人の思惑が錯綜して、その結末がどこに行くのか誰にも皆目見当もつかない、闇鍋に陥っていた。

 通された最上階のユカリの部屋は女の一人暮らしには広く、その上豪華だった。

 「君、女一人でこんな家に住んでるの」
 「わたし、建設会社の経理ですから。このマンションも弊社が手がけた物件ですの」
 「建設会社・・」
 「地元の光村建設です」
 「ああ、あの駅前にビルのある」
 「はい」
 「それにしても・・・。失礼だけど、社長のお抱えOLとか・・・」
 「社長は従兄で、会長がわたしの伯父」
 「同族経営か。なるほどね」

 ユカリが名刺を差し出した。

 「取締役 経理部長・・・・」

 名刺を見た浩二はまたビックリした。

 「失礼だけど、おいくつ」
 「三〇です」
 「しかし、いくら同族会社でも、経理部長にお飾りはないでしょう」
 「わたし一応公認会計士です。それに、古い体質を変えるまでの五年間は闘いでしたワ」
 「それで、三〇にして取締役か。恐れ入ったの何とかだ」
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