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黄昏異変 肉欲の奈落
第2章 取締役経理部長  ユカリ
 「そんなことがあったの、ここで・・・」

 「それから、わたしがベンチに寝て、彼がスカートをめくって、下着を下ろして」

 「エーーッ」

 「子どもが出来て、中絶したの」

 ユカリはそこまで一気に話して、言葉を切った。

 「嘘だろう。脅かさないでよユカリさん」
 「ずっと忘れていた。思い出したくもなかった。なのに、浩二さんがここに座るから思い出してしまったワ」

 ユカリの頬を幾筋もの涙が流れ落ちた。
 浩二はあっけに取られて、言葉を失った。
 しばらく沈黙の時が流れた。
 冷たい北風がユカリの亜麻色の長い髪を巻き上げ、吹き抜けていった。

 「その彼氏、どうなったと思います」
 「・・・・さあ」
 「自殺したの」
 「自殺・・・」
 「嘘よ。高校に行ったら、別の彼女と歩いていたわ」
 「嘘か。どこまで本当なんだ」
 「あとはみんな本当のこと。惨めでしょう、わたし」
 「・・・・分かるよ」
 「世間知らずの、ませた、間抜けな非行少女」
 「そんなことがあったのか・・・。中絶なんて気にしないことだ」
 「フフフ。その中絶も、気づいたときにはベッドの上。母が病院に連れて行って、有無を言わさず、一言の説明もなく」
 「それが君を思う母親の賢明な判断だよ」
 「分かってる。でも、わたしは母が許せなかった。今でも許せない。だって、わたしの初めての大切な命よ。それがどんな浅はかな行為の結果だったとしても・・・・」

 「よく乗り越えた。僕にはとても真似出来ない」

 早苗といい、ユカリといい、10代に味わった痛みと悲しみと、そして恐怖を乗り越え、男に負けない人生を歩んできたのだ。
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