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黄昏異変 肉欲の奈落
第2章 取締役経理部長 ユカリ
「我、常に、ここにおいて切なり」
「・・・・どんな意味かしら?」
「いつも、その時その時、必死に生きてきた・・・、そんな意味かな。ユカリさんの話を聞いて、この言葉を思い出したよ」
浩二はベンチの上で座りなおすと、両手でユカリの冷え切った手を包み、涙に濡れたユカリの頬をそっと拭いた。
「15歳の君の無残な初恋も、君にとってはその瞬間を「切」に生きた証だ。だから、君の気持を一切無視したお母さんが許せないんだね」
語りかける言葉の安らぎ、優しく握る浩二の手の温もり。
ユカリはこの人と今を「切」に生きたいと思った。
「『我、常に、ここにおいて切なり』・・・。いい言葉ね。誰の言葉なの」
ユカリの目に再び涙が溢れた。
「昔の禅僧の言葉だって」
「ぜんそう・・・。お坊さんの言葉なの。意外だわ」
ユカリはハンカチで目頭を拭った。
ふたたび、亜麻色の長い髪を風が優しく包む。
「わたし、浩二さんが本当に好きになったみたい」
「本当に・・・?」
「遊びのつもりだったのに」
転ばぬ先の杖はムダになったか・・・・。
帰宅の道を歩む浩二は苦笑した。
(このまま、ユカリさんを抱いたら、不良中学生以下だ)
正月三が日も過ぎ、定年が一気に近づいて来るように思えて、浩二は深い溜息をついた。
どうも歳とともに時間の進むのが速くなるようだ。
まだ随分先のことだと思っていたのに、瞬く間に第二金曜日がやって来た。
料理教室のドアを開けると見慣れないおばさんたちに混じってお喋りしているユカリの姿が見えた。
「お久しぶり」
その声に振り返ったユカリの顔が、パッと明るくなった。
「・・・・どんな意味かしら?」
「いつも、その時その時、必死に生きてきた・・・、そんな意味かな。ユカリさんの話を聞いて、この言葉を思い出したよ」
浩二はベンチの上で座りなおすと、両手でユカリの冷え切った手を包み、涙に濡れたユカリの頬をそっと拭いた。
「15歳の君の無残な初恋も、君にとってはその瞬間を「切」に生きた証だ。だから、君の気持を一切無視したお母さんが許せないんだね」
語りかける言葉の安らぎ、優しく握る浩二の手の温もり。
ユカリはこの人と今を「切」に生きたいと思った。
「『我、常に、ここにおいて切なり』・・・。いい言葉ね。誰の言葉なの」
ユカリの目に再び涙が溢れた。
「昔の禅僧の言葉だって」
「ぜんそう・・・。お坊さんの言葉なの。意外だわ」
ユカリはハンカチで目頭を拭った。
ふたたび、亜麻色の長い髪を風が優しく包む。
「わたし、浩二さんが本当に好きになったみたい」
「本当に・・・?」
「遊びのつもりだったのに」
転ばぬ先の杖はムダになったか・・・・。
帰宅の道を歩む浩二は苦笑した。
(このまま、ユカリさんを抱いたら、不良中学生以下だ)
正月三が日も過ぎ、定年が一気に近づいて来るように思えて、浩二は深い溜息をついた。
どうも歳とともに時間の進むのが速くなるようだ。
まだ随分先のことだと思っていたのに、瞬く間に第二金曜日がやって来た。
料理教室のドアを開けると見慣れないおばさんたちに混じってお喋りしているユカリの姿が見えた。
「お久しぶり」
その声に振り返ったユカリの顔が、パッと明るくなった。