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復讐の味は甘い果実に似て
第1章 終わりと始まり
三和土から靴を脱いで玄関に上がろうとした瞬間、僕の背中を妙な違和感が走った。
部屋の明かりは消えているのに、キシキシとベッドのきしむ音がして、中からくぐもった声が響いてくる。
「んっ……あっ……あっ……んんっ!」
全身に総毛立つような悪寒が走り、頭のてっぺんから血の気が引いた。
目の前の恵梨の部屋で、何が行われているかは明らかだった。
だが、その時の僕は、何の前触れもなく目の前に突き付けられた現実に、どう対処すればよいか図りかねていた。そして、僕は彼女の部屋に踏み込むでもなく、ただ、茫然と彼女のくぐもった喘ぎ声と、見知らぬ男の息遣いを聞き続けていた。
どのくらい僕がそうしていたのかは、よく覚えていない。
やがて、脱力した僕の手からケーキの箱が床に落ち、コトン、と小さな音を立てた。
永遠に続くように思われたベッドのきしむ音と喘ぎ声が止まり、目の前の部屋が波を打ったように静まり返った。
部屋の明かりが灯されて、やにわにガサガサと物音が立ち始めたが、もう、僕に、それが何かを確かめに行く勇気はなかった。僕は乱暴にドアを閉めると、脱兎の如く階段を駆け下りて、夜の闇のなかへと駆け出していった。
部屋の明かりは消えているのに、キシキシとベッドのきしむ音がして、中からくぐもった声が響いてくる。
「んっ……あっ……あっ……んんっ!」
全身に総毛立つような悪寒が走り、頭のてっぺんから血の気が引いた。
目の前の恵梨の部屋で、何が行われているかは明らかだった。
だが、その時の僕は、何の前触れもなく目の前に突き付けられた現実に、どう対処すればよいか図りかねていた。そして、僕は彼女の部屋に踏み込むでもなく、ただ、茫然と彼女のくぐもった喘ぎ声と、見知らぬ男の息遣いを聞き続けていた。
どのくらい僕がそうしていたのかは、よく覚えていない。
やがて、脱力した僕の手からケーキの箱が床に落ち、コトン、と小さな音を立てた。
永遠に続くように思われたベッドのきしむ音と喘ぎ声が止まり、目の前の部屋が波を打ったように静まり返った。
部屋の明かりが灯されて、やにわにガサガサと物音が立ち始めたが、もう、僕に、それが何かを確かめに行く勇気はなかった。僕は乱暴にドアを閉めると、脱兎の如く階段を駆け下りて、夜の闇のなかへと駆け出していった。