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復讐の味は甘い果実に似て
第1章 終わりと始まり
 僕は懇親会を出たその足で、まだ開いているケーキ屋に行き、恵梨の好きなチョコレートケーキを買った。そのまま、花屋にも寄って、大仰でない程度に花束をしつらえた。
 僕としては、ちょっとしたサプライズのつもりだったのだ。
 実際、今日、恵梨に話す内容を考えれば、このくらいの用意は必要だろう。
 
 無事に仕事が終わったこと。
 結構な臨時収入があったこと。
 そして、この年末には、ご両親にきちんと挨拶に行きたい、ということ。
 
 僕は足取りも軽く、恵梨のアパートに向かった。
 恵梨からは、いつでも来てね、と合鍵を渡されていたから、サプライズ訪問は可能だったけれど、僕の方から彼女の部屋に出向くことはあまりなかった。
 僕自身が忙しかったこともあるけれど、彼女のアパートはいわゆる女性専用というやつで、部屋に男が出入りするのを大家さんが快く思わなかったのだ。
 まだ付き合い始めたころに彼女の部屋に行き、何とはなしに僕がそういう雰囲気になってしまったとき、ここではダメ、と恵梨にきっぱりと断られたことがある。
 そういう事情もあって、僕は恵梨と会うときはうちにおいでよ、という形で電話かメールを入れて僕の部屋に来てもらうか、彼女がバイトしている例のカフェで待ち合わせることにしているのだった。

 僕は恵梨の部屋の前に立ち、中に聞こえないようにそろそろと鍵を差し入れた。
 彼女は部屋の向こうで何をしているのだろうか。
 テレビでも見ているのだろうか。
 時間的には風呂かもしれないな。
 
 僕は恵梨のことを考えながら、鍵の開く音が中に聞こえないように、慎重にシリンダーをまわして玄関に入っていった。
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