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復讐の味は甘い果実に似て
第6章 絶望へのいざない ~ひかるの告白~
 あたしが再び目を覚ました時、ベッドの傍らに、あるべきはずの温もりはなかった。
 先輩はすでにシャワーを済ませて、身支度を整えていた。
 そして、恵梨が置いていたバックも無くなっていた。
 恵梨はすでに帰ってしまったようだった。
 あたしは、自分に背を向けて服を着ていく先輩を見つめながら、約束していた「今夜」が終わってしまったことを知った。

 先輩は、処女のあたしがお願いした通り、あたしだけを見て、あたしを女にしてくれた。
 それは、あたしが望んだ、たった一晩だけの夢だ。
 そして、あたしが目覚めて、その夢は終わったのだ。
 まるで魔法が解けてしまったシンデレラのように。

「ああ、まだ寝てていいよ。僕は行くけど、チェックアウトまでは、まだ間があるから。」
 振り向いた先輩が、あたしに言った。
 
 行かないで、と言いかけて、あたしはその言葉を飲み込んだ。

 わたしは、ただの道具なんだ。
 先輩が恵梨に復讐するための。
 そして、自分の心から恵梨という存在を消すための。
 けれども、あたしは、この人の心から、恵梨を追い出すことができなかっただけ。
 ……ただ、それだけのことだ。

「そろそろ行くよ。いろいろと済まなかったな。」
 服を着終えた先輩が、わたしの方を向いて声をかけてくれた。

 違う。
 あたしが欲しいのは、そんなお詫びの言葉なんかじゃない。
 何も言わずに、ただ、きつく抱きしめてくれれば、それでいい。

 だけど、あたしにその言葉を紡ぐ勇気はなかった。
 先輩は静かに部屋の戸を開けると、そのまま出て行った。

 一人、取り残されたあたしの目から、ゆっくりと涙がこぼれた。

 先輩は、残酷だ。
 あたしの体にも、心にも、絶対に消せない記憶を刻みつけたまま、居なくなるなんて。
 先輩の汗の匂いの残ったシーツに顔を押し付けて、あたしは静かに涙を流し続けた。





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