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復讐の味は甘い果実に似て
第7章 割れない数字 ~恵梨の告白~
わたしは朝焼けの街を、駅へと向かって歩いていた。
泣き疲れて瞼が腫れあがり、とても目をあげて歩けた顔ではなかった。
俯いて歩くわたしのなかで、俊ちゃんの最後の言葉が、何度も反芻していた。
ひかるが眠ってしまった後、俊ちゃんが、となりの部屋のわたしのところに来て、静かに告げた言葉だ。
「もう、これで十分だろう? 僕は君への復讐のために、君の友達の女の子を2人も平気で手籠めにするような男なんだ。しかも、1人は処女だ。もう僕が血も涙もない、どうしようもないクズだと思って、このまま、僕の前からいなくなってくれないか?」
「……俊ちゃんはクズじゃない。そうさせたのはわたしで、わたしは俊ちゃんを嫌いになんてなれない!」
「……もう、好きか、嫌いかなんて関係ないんだ。恵梨が傍にいると、僕は、どんな些細なことでも浮気に結び付けて考えるようになる。そしたら、僕は、恵梨のことを傷つけることしか考えられなくなる。僕は、君にそんなことをしたくない。」
「……どれだけ傷つけられてもいい! それでも、わたしは俊ちゃんと一緒にいたい! 俊ちゃんに何を言われても、それはわたしが受けるべき罰だと思うから……だから……。」
「……なあ、前にも話したけど、僕は、母さんがいなくなってから、ずっと信頼してた人が裏切る恐怖に脅えて生きてきたんだ。もう、信頼してない人とは一緒にいられないんだよ。たとえ、どれだけ君への情が残ってたとしても、無理なんだ。」
「……。」
「僕は来月の半ばには、就職先の栃木の研究所の寮に引っ越すことになってる。もし、君と関係を続けたら、僕はこれからずっと、君が裏切る恐怖に脅えて暮らすことになる。」
「……もう、絶対に裏切ったりしないから……だから……。」
「だから? 信じてくれ? ここまで君はどれだけの嘘を重ねてきた? 僕だけじゃない。友達も平気で騙して、嘘に嘘を重ねてきた結果が「今」だよ。いい加減、現実を見てくれ。そして、自分がどれだけひどいことをしたのかちゃんと考えて、彼女たちに自分のやったことをきちんと詫びてくれ。」
そういうと、俊ちゃんは話を切って、わたしの両手のロープをほどいた。
もう、わたしに何か言えることはなかった。
そのまま、俊ちゃんは私に背を向けて、窓の外に目線を移すと、わたしには二度と振り向いてくれなかった。